NORSE · STORY
バルドルの死――ヤドリギの矢
不吉な夢を見たバルドルのため、フリッグはあらゆるものに彼を傷つけないと誓わせる。神々はその不死身を遊びにしたが、ただ一つ誓いを求められなかったヤドリギを、ロキが盲目のヘズに射させた。神々と人間に起きた最大の不幸と、その火葬までを語る。
光を放つ神
オーディンの二番目の息子を、バルドルという。バルドルについては、よいことばかりが語られる。神々のなかで最もすぐれ、誰からもほめたたえられた。顔立ちが美しく、まばゆいほど明るく、その身からは光が放たれていた。
バルドルはアース神族のなかで最も賢く、最も言葉が美しく、最も慈悲深かった。ただ、その裁きは誰にも覆すことができなかった。バルドルは天のブレイザブリクに住み、そこには汚れたものが一つもない。
フリッグの誓い
あるとき、善きバルドルは、自分の命にかかわる、大きな危うい夢を見た。
バルドルがその夢をアース神族に話すと、神々は集まって相談した。そして、あらゆる危険からバルドルを守ってもらうよう、すべてのものに頼もうと決めた。
フリッグは、ものというものに誓わせた。火も水も、鉄もあらゆる金属も、石も土も、木々も、病も、獣も鳥も、毒も蛇も、バルドルを傷つけないと。
神々の遊び
誓いがすみ、そのことが知れわたると、バルドルと神々のあいだで一つの遊びが始まった。集会の場にバルドルが立ち、ほかの者たちが矢を射たり、切りつけたり、石を投げつけたりするのである。何をしても、バルドルは少しも傷つかなかった。それを見て、皆はすばらしいことだと思った。
ただ一つのヤドリギ
ところがロキ・ラウフェイヤルソンは、バルドルが傷つかないのを見て、快く思わなかった。
ロキは女の姿に化けて、フェンサリルに住むフリッグを訪ねた。フリッグは、その女に尋ねた。集会の場で、アース神族が何をしているか知っているかい。
女は答えた。みんながバルドルに矢を射かけています。けれども、バルドルは少しも傷つきません。
フリッグは言った。武器も木も、バルドルを傷つけることはできないよ。わたしが、すべてのものに誓わせたのだから。
女は尋ねた。すべてのものが、バルドルを傷つけないと誓ったのですか。
フリッグは答えた。ヴァルハラの西に、若枝が一本だけ生えている。ヤドリギというのだけれど、誓いを求めるにはまだ若すぎると思ったのでね。
女はすぐに立ち去った。ロキはヤドリギを取って引き抜き、集会の場へ向かった。
盲目のヘズ
集会の場では、人の輪の外にヘズが立っていた。目が見えなかったからである。
ロキはヘズに言った。どうしてバルドルを射ないのか。
ヘズは答えた。バルドルがどこにいるのか見えないからだ。それに、わたしは武器も持っていない。
ロキは言った。ほかの者と同じようにして、バルドルに敬意を示したらいい。どこに立っているかは、わたしが教えよう。この枝で射るがいい。
ヘズはヤドリギを受け取り、ロキに導かれるまま、バルドルめがけて射た。矢はバルドルの体を突き抜け、バルドルは地に倒れて死んだ。これは、神々と人間に起きたことのうちで、最大の不幸であった。
言葉を失った神々
バルドルが倒れると、アース神族は言葉を失った。手も動かず、亡骸を抱き起こすこともできなかった。神々は互いに顔を見合わせた。誰のしわざかは、皆が分かっていた。けれども、そこは聖なる場所だったので、誰も仇を討つことはできなかった。
神々が何か言おうとすると、まず涙があふれてきて、悲しみを言葉にして伝え合うこともできなかった。なかでも、オーディンが最もつらくこの不幸に耐えた。バルドルの死がアース神族にとってどれほど大きな損失かを、誰よりもよく分かっていたからである。
やがて神々が我に返ると、フリッグが言った。アース神族のなかに、わたしの愛と好意を一身に受けたいと思う者はいないか。その者はヘルの国への道を馬で行き、バルドルを探しだして、ヘルに身代金を差し出し、バルドルをアースガルズへ帰してくれるよう頼んでほしい。
その使いを引き受けたのは、オーディンの息子で、豪胆なヘルモーズだった。オーディンの馬スレイプニルが引いてこられると、ヘルモーズはそれにまたがり、駆け去っていった。その旅の話は、物語「ヘルの国へ向かったヘルモーズ」で語る。
動かない船
アース神族は、バルドルの亡骸を海辺へ運んだ。バルドルの船はフリングホルニといい、あらゆる船のなかで最も大きかった。神々はこの船を海へ押し出し、その上でバルドルを火葬にしようとした。ところが、船はびくとも動かなかった。
そこで巨人の国へ使いを送り、ヒュロッキンという女巨人を呼んだ。ヒュロッキンは狼にまたがり、毒蛇を手綱にしてやって来た。彼女が乗り物から飛び降りると、オーディンは四人の狂戦士にその狼の番をさせた。けれども狂戦士たちは、狼を打ち倒すまで、押さえておくことができなかった。
ヒュロッキンは船の舳先へ行き、ひと押しで船を押し出した。転木からは火が噴き出し、すべての国が揺れた。トールは怒って槌をつかみ、すぐにも女巨人の頭を砕こうとしたが、神々が彼女のために和平を願ったので、思いとどまった。
火葬の薪
バルドルの亡骸が船の上に運ばれると、それを見たバルドルの妻ナンナ――ネプの娘――は、悲しみのあまり胸が張り裂けて死んでしまった。ナンナも薪の上に運ばれ、火がつけられた。
トールはそばに立ち、ミョルニルで薪を清めた。そのとき、リトという小人がトールの足もとを走りぬけた。トールはそれを足で蹴って火の中へ入れ、小人は焼けてしまった。
この火葬には、さまざまな一族の者たちがやって来た。まずオーディンが、フリッグとヴァルキューリアたち、それに鴉たちを連れて来た。フレイは、黄金のたてがみ(恐ろしい牙とも)という猪に引かせた車で来た。ヘイムダルは、グルトップという馬に乗って来た。フレイヤは猫に引かせた車で来た。霜の巨人や山の巨人も、大勢やって来た。
オーディンは、ドラウプニルという金の腕輪を薪の上に置いた。この腕輪からは、九夜ごとに、同じ重さの金の腕輪が八つずつ滴り落ちる。バルドルの馬も、馬具をすべてつけたまま、火葬の炎へ引かれていった。
出典について:本稿は『散文のエッダ』「ギュルヴィたぶらかし」第49章の前半に基づき、冒頭のバルドルの紹介を同書第22章で補った再話です(英訳は A・G・ブロデュール訳、1916年)。原典では、ガングレリと名のる者の問いに語り手ハールが答える問答のなかで語られます。『古エッダ』の「バルドルの夢」では、夢を受けたオーディンが死者の国の巫女に問いに行きます(物語「バルドルが見た不吉な夢――死者の国の巫女」)。「ギュルヴィたぶらかし」はこの巫女の話を語らず、かわりにフリッグの誓いを語っています。
出典・資料
- スノッリ・ストゥルルソン『散文のエッダ』「ギュルヴィたぶらかし」 — 作品全体。記事ごとの章節は制作記録で特定する
