ENCYCLOPEDIA · 北欧神話
ヴァルハラ
Valhalla
オーディンの館。黄金に輝き、垂木は槍、屋根は盾で葺かれている。選ばれた戦死者の戦士エインヘリヤルが集まり、日々戦っては宴を開き、世界の終わりの戦いに備える。
オーディンのもとに集う館
ヴァルハラは、戦いで倒れた者たちのうち、オーディンに選ばれた者が集まる館である。『古エッダ』「グリームニルの言葉」は、神々の住まいを順に数えるなかで、グラズスヘイムという地に黄金に輝くヴァルハラが広々と建ち、そこでオーディンが戦いで倒れた者たちを毎日選ぶと語る。
『散文のエッダ』「ギュルヴィたぶらかし」でも、オーディンは「戦死者の父」とも呼ばれ、戦いで倒れた者たちのためにヴァルハラとヴィーンゴールヴという住まいを定めると説明されている。
槍と盾の館
「グリームニルの言葉」によれば、オーディンのもとへ来てこの館を目にする者には、それがヴァルハラだとすぐにわかる。垂木は槍で、屋根は盾で葺かれ、長椅子には胸当てが散らばっている。西の戸口のそばには狼が掛けられ、その上を鷲が舞っている。
詩が挙げるのはこうした目印で、建物の形や大きさ、盾の形や並べ方までは描かれていない。「ギュルヴィたぶらかし」は、館がきわめて大きく、戸口も多いので、大勢の戦士が出入りしても混み合わないと語っている。
戦士エインヘリヤルの日々
ヴァルハラに集まった戦死者の戦士たちは、エインヘリヤルと呼ばれる。「ギュルヴィたぶらかし」によれば、彼らは毎日、服を着るとすぐに武具を身につけて中庭へ出て戦い、互いに打ち倒し合う。それが彼らの楽しみで、食事の時が近づくと馬でヴァルハラへ戻り、席について酒を飲む。
食べ物は、セーフリームニルという猪の肉である。料理番のアンドフリームニルが大鍋エルドフリームニルで毎日煮るが、猪は夕方にはもとどおりになっている。飲み物は、レーラズという木の枝をかじる山羊ヘイズルーンの乳房から流れ出る蜜酒で、毎日大樽を満たし、戦士たちがみな酔うほどある。
館で戦士たちに酒を運ぶのはヴァルキューリアたちである。オーディンは彼女たちをあらゆる戦いへ送り、彼女たちは誰が死ぬかを定め、勝利を与える。
終わりの戦いへの備え
ヴァルハラの戦士はきわめて多いが、「ギュルヴィたぶらかし」は、狼がやって来るときには、それでも少なすぎると思われるだろうと語る。「グリームニルの言葉」でも、戦士たちは狼と戦いに行くとき、館の数多くの戸口から大勢で出ていくとされる。この狼は、世界の終わりの戦い(ラグナロク)で神々に立ち向かうフェンリルを指すと考えられている。
戦死者はみなヴァルハラへ行くのか
「ギュルヴィたぶらかし」には、戦いで倒れた者はみなオーディンの養子となり、世の初めからヴァルハラのオーディンのもとへ来ているという説明がある。
一方で「グリームニルの言葉」は、女神フレイヤの住まいフォールクヴァングについて、フレイヤが毎日戦死者の半分を選び、残る半分をオーディンが得ると語る。この詩は「ギュルヴィたぶらかし」にも引かれている。資料によって語り方が異なり、戦いで倒れた者がすべてヴァルハラへ行くと一言でまとめることはできない。
登場する物語
- 神々の城壁を築いた者――太陽と月を求めた職人一冬で城壁を築く代わりに、女神フレイヤと太陽と月を求めた職人。工事が期限の前に仕上がりそうになると、神々はロキを脅して取り決めを壊させる。オーディンの馬スレイプニルの生まれを語る話。
- バルドルの死――ヤドリギの矢不吉な夢を見たバルドルのため、フリッグはあらゆるものに彼を傷つけないと誓わせる。神々はその不死身を遊びにしたが、ただ一つ誓いを求められなかったヤドリギを、ロキが盲目のヘズに射させた。神々と人間に起きた最大の不幸と、その火葬までを語る。
- フレイヤとヒュンドラ――オッタルの系譜女神フレイヤは洞窟の女巨人ヒュンドラを起こし、お気に入りの若者オッタルの先祖を語らせる。金の猪に乗る女神と、皮肉を返す女巨人。長い系譜と小さな世界の予言のあと、二人は激しい言葉を交わして別れる。
- グリームニルの試練と王の結末オーディンとフリッグの賭けから、名を明かさない旅人グリームニルは王ゲイルロズに捕らえられ、二つの火のあいだで八夜を過ごす。一杯の角杯をくれた王子にだけ報い、神々と世界の秘密を語り終えたとき、客は自分の本当の名を告げる。
- ヘルギとシグルーン――死者との再会オーディンの槍を授かった義兄弟ダグに討たれたヘルギ。シグルーンは兄を呪い、夫の塚のそばで嘆く。ある夕方、塚が開いて、死んだヘルギが仲間とともに馬で戻ってくる。冷たい夫を抱いて一夜を過ごしたシグルーンに、夜明けは別れを告げた。
- トールとフルングニルの決闘――頭に残った砥石馬比べからアースガルズへ入りこみ、酔って大言を吐いた巨人フルングニル。トールは初めての一騎打ちに臨み、槌で巨人を倒すが、砕けた砥石のかけらは今もトールの頭に刺さったままだという。
関連する事典項目
出典
- 『古エッダ』「グリームニルの言葉」ヴァルハラに関する節
- 原題
- Grímnismál / Grimnismol, stanzas 8–10, 14, 18–23
- 該当箇所
- 8〜10節(グラズスヘイムのヴァルハラ、オーディンが戦死者を選ぶこと、館のようす)、14節(フォールクヴァングのフレイヤの取り分)、18〜23節(戦士たちの食事と館の門)
- 参照訳
- Henry Adams Bellows, The Poetic Edda (1923)
節番号はBellows訳に従う。版によって節の区分・順序に差がある。
- スノッリ・ストゥルルソン『散文のエッダ』「ギュルヴィたぶらかし」ヴァルハラに関する章
- 原題
- Gylfaginning, chapters 20, 24, 36, 38–41
- 該当箇所
- 第20章(戦死者とヴァルハラ)、第24章(フレイヤの取り分)、第36章(ヴァルキューリア)、第38〜41章(エインヘリヤルの食事・飲み物・館の門・日々の戦い)
- 参照訳
- Arthur Gilchrist Brodeur, The Prose Edda (1916)
章番号はBrodeur訳に従う。
