NORSE · STORY
ヘルの国へ向かったヘルモーズ
バルドルを取り戻すため、ヘルモーズはスレイプニルに乗り、九夜をかけて死者の国へ向かう。ヘルが示した条件は、世界のすべてのものがバルドルのために泣くこと。ほとんどすべてが泣いたが、洞窟の女巨人だけが涙を拒んだ。
九夜の暗い谷
バルドルが死んだあと、フリッグの願いを受けて、オーディンの息子ヘルモーズがヘルの国へ向かった(物語「バルドルの死――ヤドリギの矢」)。乗っているのは、オーディンの馬スレイプニルである。
ヘルモーズは九夜のあいだ、暗く深い谷を進んだ。何も見えないまま、やがてギョッルという川に着き、ギョッルの橋に乗り入れた。その橋は、輝く金で屋根が葺かれていた。
橋の番人
橋を守っているのは、モーズグズという乙女だった。モーズグズは、ヘルモーズに名と一族を尋ねて言った。
昨日は、死者の群れが五つもこの橋を渡っていった。けれども、あなたひとりのほうが、橋はずっと大きくとどろく。それに、あなたは死者の顔色をしていない。なぜ、ヘルへ向かう道をやって来るのか。
ヘルモーズは答えた。わたしはヘルの国へ行き、バルドルを探しだすよう命じられたのだ。もしや、バルドルがこの道を通るのを見なかったか。
モーズグズは言った。バルドルなら、このギョッルの橋を渡っていった。ヘルへの道は、ここから下へ、北へと続いている。
門を跳び越える馬
ヘルモーズは先へ進み、ヘルの国の門に着いた。そこで馬を降りて腹帯をしっかりと締め直すと、ふたたびまたがって拍車を当てた。馬は高々と跳び、門に少しも触れずに、その上を越えていった。
ヘルモーズは館まで馬を進め、馬を降りて中へ入った。すると、兄弟のバルドルが高座に座っているのが見えた。ヘルモーズは、その夜をそこで過ごした。
ヘルの条件
朝になると、ヘルモーズはヘルに頼んだ。バルドルを、わたしといっしょに馬で家へ帰らせてほしい。そして、アース神族がどれほど嘆き悲しんでいるかを語った。
ヘルは言った。バルドルが、言われているほど誰からも愛されているのかどうか、こうして確かめよう。世界のすべてのもの、生きているものも死んでいるものも、みなバルドルのために泣くならば、彼はアース神族のもとへ帰る。けれども、一つでも異を唱えるもの、泣こうとしないものがあれば、バルドルはヘルのもとにとどまる。
ヘルモーズが立ち上がると、バルドルは館の外まで送ってきた。バルドルは腕輪ドラウプニルを取り、記念としてオーディンに届けるよう託した。この腕輪は、火葬のときにオーディンが薪の上に置いたものである。バルドルの妻ナンナは、フリッグに亜麻の上着とほかの贈り物を、フッラという女神には金の指輪を送った。
世界中が泣く
ヘルモーズは来た道を戻ってアースガルズに着き、見たこと聞いたことのすべてを伝えた。
アース神族は世界中に使者を送り、バルドルをヘルの国から泣き出してくれるよう頼んだ。すべてのものが、そのとおりにした。人間も、生き物も、大地も、石も、木々も、あらゆる金属も泣いた。霜の中から暖かいところへ出てくると、そうしたものが泣いて濡れるのを、見たことがあるだろう、と語り手は言う。
泣かなかった女巨人
使者たちは役目をよく果たして帰る途中、ある洞窟の中に一人の女巨人が座っているのを見つけた。女はセックと名のった。使者たちは、バルドルをヘルから泣き出してくれるよう、この女にも頼んだ。女は歌って答えた。
セックは泣こう、乾いた涙で、バルドルの火葬のために。生きていても死んでいても、あの者の息子を好いたことなどない。ヘルは、持っているものを持っておくがいい。
そこにいたのは、アース神族に最も多くの悪をなしてきたロキ・ラウフェイヤルソンだったと、人々は考えている。
こうしてバルドルは、ヘルの国から帰ることができなかった。ロキはバルドルを殺させたうえ、彼がヘルから取り戻されることまで妨げたのである。そのロキに神々がどんな報いを与えたかは、物語「ロキの捕縛と罰」で語る。
出典について:本稿は『散文のエッダ』「ギュルヴィたぶらかし」第49章の後半に基づく再話です(英訳は A・G・ブロデュール訳、1916年)。結びの一文は、続く第50章の冒頭でガングレリが述べる言葉によります。原典では、ガングレリと名のる者の問いに語り手ハールが答える問答のなかで語られます。セックがロキだったことは、原典でも「人々はそう考えている」という形で書かれています。
出典・資料
- スノッリ・ストゥルルソン『散文のエッダ』「ギュルヴィたぶらかし」 — 作品全体。記事ごとの章節は制作記録で特定する
