ENCYCLOPEDIA · 北欧神話
フリッグ
Frigg
オーディンの妻で、バルドルの母。人の運命をすべて知っているが、自分からは語らないとされる。バルドルを守るため万物に誓いを立てさせたが、ヤドリギだけが残った。
オーディンの妻
フリッグは、フィョルギュンの娘で、オーディンの妻である。『散文のエッダ』「ギュルヴィたぶらかし」は、オーディンとフリッグの血筋からアース神族の一族が出たと語る。また、フリッグは人の運命をすべて知っているが、自分から予言を語ることはないという。
同じ書物が女神たちを数えあげるところでは、フリッグが第一の女神とされ、フェンサリルという、たいへん華やかな住まいをもつ。女神フッラはフリッグのとねりこの箱を運び、その履物の世話をし、ひそかな考えを知っている。女神グナーはフリッグの使いとして国々へ遣わされ、フリンはフリッグが危険から守りたいと思う人々の守り手とされる。
バルドルのための誓い
息子バルドルが命にかかわる不吉な夢を見たとき、フリッグは、火と水、鉄とあらゆる金属、石、土、木、病、獣、鳥、毒、蛇に、バルドルを傷つけないと誓わせた。ところが、女の姿でフェンサリルを訪ねてきたロキに、ヴァルハラの西に生えるヤドリギだけは、若すぎると思って誓いを求めなかったと話してしまう。ロキはそのヤドリギを盲目のヘズに射させ、バルドルは死んだ。
そのあとフリッグは、自分の愛と好意を一身に受けたい者はいないか、ヘルの国へ馬で行き、バルドルを帰してもらう身代金を差し出してほしい、と神々に呼びかけた。この使いを引き受けたのが、オーディンの息子ヘルモーズである。『古エッダ』の「巫女の予言」(ベロウズ訳34節)は、フリッグがフェンサリルで激しく泣いたとうたう。
詩に描かれるフリッグ
『古エッダ』の「ヴァフスルーズニルの言葉」では、賢い巨人と知恵を競いに行こうとするオーディンをフリッグが引き止め、それでも出かける夫の無事を願う。「グリームニルの言葉」の冒頭の散文では、オーディンとフリッグが高座フリズスキャールヴから世界を見渡し、それぞれが育てた王子アグナルとゲイルロズをめぐって賭けをする。
「ロキの口論」では、宴の席でロキにののしられたフリッグが、ここにバルドルのような息子がいれば、おまえは無事に出られなかっただろうと言い返す。ロキは、バルドルが館へ帰らなくなったのは自分のせいだと告げる。
「詩語法」は、フリッグの言い換えとして、フィョルギュンの娘、オーディンの妻、バルドルの母、ナンナの義母、フッラと鷹の羽衣とフェンサリルの主などを挙げる。ロキがフリッグの鷹の羽衣を借りて空を飛ぶ話も、同じ書物にある。
フレイヤとは別の女神
採用した資料は、フリッグとフレイヤを別の女神として扱っている。「ギュルヴィたぶらかし」の女神の一覧では、フリッグが第一の女神とされ、フレイヤは「フリッグとともに」最も高貴な生まれとして、オーズの妻と別に紹介される。「詩語法」でも、フリッグはフィョルギュンの娘、フレイヤはニョルズの娘と、異なる系譜で呼ばれる。
登場する物語
- 最初の人間アスクとエムブラ世界を作りあげた神々は、海辺で二本の木を見つけ、そこから最初の男と女を形づくる。命や知恵、言葉を授けられた二人から、人間の一族が始まった。
- バルドルの死――ヤドリギの矢不吉な夢を見たバルドルのため、フリッグはあらゆるものに彼を傷つけないと誓わせる。神々はその不死身を遊びにしたが、ただ一つ誓いを求められなかったヤドリギを、ロキが盲目のヘズに射させた。神々と人間に起きた最大の不幸と、その火葬までを語る。
- グリームニルの試練と王の結末オーディンとフリッグの賭けから、名を明かさない旅人グリームニルは王ゲイルロズに捕らえられ、二つの火のあいだで八夜を過ごす。一杯の角杯をくれた王子にだけ報い、神々と世界の秘密を語り終えたとき、客は自分の本当の名を告げる。
- ヘルの国へ向かったヘルモーズバルドルを取り戻すため、ヘルモーズはスレイプニルに乗り、九夜をかけて死者の国へ向かう。ヘルが示した条件は、世界のすべてのものがバルドルのために泣くこと。ほとんどすべてが泣いたが、洞窟の女巨人だけが涙を拒んだ。
- ロキの口論――エーギルの宴の騒動海の巨人エーギルの館の宴に、追い出されたロキが戻ってくる。席を求めたロキは、神々と女神たちに次々と悪口を浴びせ、最後に現れたトールの槌の脅しの前で、ようやく館を去る。『古エッダ』の「ロキの口論」。
- オッドルーンの嘆き難産に苦しむ乙女ボルグニュを呪文で救ったオッドルーンは、その枕もとで自分の過去を語りはじめる。アトリの妹として生まれ、グンナルを愛し、ひそかに会い、そして蛇の穴の竪琴の音を聞きながら、愛する人を救えなかったこと。
- オーディンとヴァフスルーズニルの知恵比べ名を偽って巨人の館を訪れたオーディンは、首を賭けた問答に挑む。世界の始まりから神々の滅びのあとまでを問い合った末、最後の一問で巨人は客の正体を悟る。
- トールとゲイルロズの館鷹の姿で捕まったロキは、命と引きかえに、トールを槌も持たせず巨人ゲイルロズの館へ連れていくと誓う。女巨人グリーズに道具を借りたトールは、増水する川を渡り、持ち上がる椅子と灼けた鉄の棒をしのぐ。
関連する事典項目
出典
- スノッリ・ストゥルルソン『散文のエッダ』「ギュルヴィたぶらかし」
- 原題
- Gylfaginning
- 該当箇所
- 作品全体。記事ごとの章節は制作記録で特定する
- 参照訳
- Arthur Gilchrist Brodeur, The Prose Edda (1916)
2026-10-28、収録計画のため目次と一部本文を確認。全記事の本文照合済みを意味しない。既存の章別出典レコードは変更しない。
- スノッリ・ストゥルルソン『散文のエッダ』「詩語法」
- 原題
- Skáldskaparmál
- 該当箇所
- 作品全体。章番号はBrodeur訳に従い、他版の番号と混同しない
- 参照訳
- Arthur Gilchrist Brodeur, The Prose Edda (1916)
2026-10-28、収録計画のため一部本文を確認。グングニルと神器の製作はこの版の第35章。フロールヴ・クラキは第43章。個別記事の照合は別に記録する。
- 『古エッダ』Bellows訳・神々の歌と英雄詩
- 原題
- The Poetic Edda
- 該当箇所
- 作品別の詩名・節を本文制作時に特定する
- 参照訳
- Henry Adams Bellows, The Poetic Edda (1923)
2026-10-28、収録目次を確認。詩ごとの本文確認は未実施。既存の採用詩の章別レコードは維持する。





