NORSE · STORY

バルドルが見た不吉な夢――死者の国の巫女

神々の愛するバルドルが不吉な夢を見た。オーディンはスレイプニルに乗って死者の国へ下り、墓に眠る巫女を呪文で呼び起こす。名を偽って問いを重ねるうち、バルドルの運命と、巫女の正体が明らかになっていく。

神々の会議

あるとき、神々は集まって会議を開いた。女神たちもやって来て、ともに話し合った。名高い神々が知りたかったのは、なぜバルドルに不吉な夢が訪れたのか、その本当のわけだった。

死者の国への道

するとオーディンが立ち上がった。年老いた魔術の神は、スレイプニルの背に鞍を置き、深いニヴルヘル――死者の女王ヘルの住む暗い国――へと馬を走らせて下っていった。

途中で、オーディンは一匹の犬に出会った。ヘルの国から出てきた犬で、胸の前を血に染めていた。犬は魔術の父に向かって、遠くから吠えたてた。

オーディンはかまわず先へ進んだ。大地が鳴りとどろき、やがてヘルの高い館に着いた。

オーディンは館の東の戸口へ馬を進めた。そこに、ある賢女――巫女――の墓があることを知っていたのである。オーディンは魔法の言葉と力ある呪文を唱えた。すると巫女は呪いに縛られて起き上がり、死のなかから語りはじめた。

名を偽る旅人

巫女は言った。わたしの知らないこの男は誰か。わたしにつらい道をたどらせたのは。わたしは雪に降られ、雨に打たれ、露にぬれてきた。長いあいだ、わたしは死んでいたのに。

オーディンは本当の名を告げなかった。わたしの名はヴェグタム、ヴァルタムの息子だ。天のことはわたしが知っているから、ヘルの国のことを話してくれ。腕輪で輝くあの長椅子は、金で飾られたあの台は、誰のために整えられているのか。

巫女は答えた。ここではバルドルのために蜜酒が醸されている。輝く飲み物の上には盾が置かれている。けれども、力ある神々の望みは失われてしまった。わたしはいやいや語った。もう黙っていたい。

バルドルを殺す者、仇を討つ者

オーディンは言った。巫女よ、やめないでくれ。わたしが尋ねたいことを、すべて知りたいのだ。誰がバルドルの死の元となり、オーディンの息子の命を奪うのか。

巫女は答えた。ヘズが、名高い枝をそこへ運んでいく。彼がバルドルの死の元となり、オーディンの息子の命を奪う。わたしはいやいや語った。もう黙っていたい。

オーディンはさらに尋ねた。誰がこの悪しき行いの仇を討つのか。誰がバルドルを殺した者を、火葬の炎へ送るのか。

巫女は答えた。リンドが、西の館ヴェストルサリルでヴァーリを生む。オーディンのその息子は、生まれてわずか一夜で戦う。バルドルを殺した者を炎のもとへ運ぶまで、手も洗わず、髪もとかさない。わたしはいやいや語った。もう黙っていたい。

正体が明かされる

オーディンは、なおも尋ねた。泣きながら帆の綱を空へ放り上げる乙女たちは、いったい誰なのか。

巫女は言った。おまえは、さっきわたしが思ったようなヴェグタムではない。おまえは、年老いた魔術の神オーディンだ。

オーディンは言い返した。おまえこそ賢女などではない。知恵もない。おまえは三人の巨人の母なのだ。

巫女は言った。家へ帰るがいい、オーディン。せいぜい誇っているがいい。これから先、わたしを訪ねてくる者は誰もいない。ロキが縛めを解かれてさまよい出し、滅ぼす者たちが最後の戦いにやって来る、その時までは。


出典について:本稿は『古エッダ』の「バルドルの夢」に基づく再話です(英訳は H・A・ベロウズ訳、1923年)。バルドルが見た夢の中身は、詩には書かれていません。訳者ベロウズの注によれば、道で出会う犬はヘルの番犬ガルム、「名高い枝」はバルドルを射たヤドリギを指します。泣く乙女たちが誰かは、訳注でもはっきりしないとされています。この詩の一部は「巫女の予言」とほぼ同じ詩句をもっています。バルドルの死そのものは、物語「バルドルの死――ヤドリギの矢」で『散文のエッダ』に従って語ります。

この物語の関連事典

神話事典神々・英雄・怪物・武器・道具・場所を横断して探す。

出典・資料