NORSE · STORY
フレイヤとヒュンドラ――オッタルの系譜
女神フレイヤは洞窟の女巨人ヒュンドラを起こし、お気に入りの若者オッタルの先祖を語らせる。金の猪に乗る女神と、皮肉を返す女巨人。長い系譜と小さな世界の予言のあと、二人は激しい言葉を交わして別れる。
洞窟の姉妹を起こす
フレイヤは洞窟の前で呼びかけた。
乙女よ、目を覚ませ。わが友、姉妹のヒュンドラよ、洞窟の中で起きよ。もう日が暮れてきた。わたしたちは馬に乗って、ヴァルハラの聖なる館へ行かねばならない。
軍勢の父――オーディン――の好意を得に行こう。オーディンは、自分に従う者たちに喜んで金を与える。ヘルモーズには兜と鎖帷子を与え、シグムンドには剣を贈った。ある者には勝利を、ある者には宝を、多くの者には知恵と言葉の技を、船乗りには順風を、歌い手には詩の技を、多くの勇士には雄々しい心を与える。
トールも讃えよう。トールの好意がいつもおまえにあるよう願おう。巨人の花嫁たちを、トールはあまり好まないけれど。
さあ、おまえの狼を一頭、小屋から引き出して、わたしの猪と並んで走らせておくれ。わたしの猪は、神々の道を進むには足が遅い。立派な乗り物を疲れさせたくはないのだ。
猪に化けた恋人
ヒュンドラは言った。
フレイヤよ、おまえはわたしを偽って誘っている。その目つきで分かる。死者の道を、おまえの恋人がいっしょに進んでいるのだ。インステインの息子、若いオッタルが。
フレイヤは言った。
死者の道をわたしの恋人がいっしょに進んでいるなどと言うのは、ひどい夢を見ているのだろう。そこに光っているのは、金の剛毛をもつ猪、ヒルディスヴィーニ。腕のいい小人のダーインとナッビが作ったものだ。
金の賭け
フレイヤは言った。さあ、鞍から跳び降りて、二人の勇士の一族について語り合おう。
若いオッタルとアンガンチュールが、金を賭けて争っている。若い勇士が父の富を、自分の一族の実りを受け継げるよう、わたしたちは見守らねばならない。
オッタルはわたしのために、石を積んで祭壇を作ってくれた。いまではその岩がガラスになってしまった。獣の血で、何度も赤く染められたのだ。オッタルは、いつも女神たちを信じてきた。
昔の名前を教えておくれ。昔に生まれたすべての一族を。誰がスキョルドゥングの一族で、誰がスキルヴィングの一族か。誰がオズリングで、誰がユルヴィングか。誰が自由な生まれで、誰が高貴な生まれか。ミズガルズに住む、最も気高い者たちのことを。
ヒュンドラの語る系譜
ヒュンドラは語りはじめた。
オッタルよ、おまえはインステインの息子。インステインは老アルヴの息子。アルヴはウルヴの、ウルヴはセーファリの息子で、セーファリの父は赤のスヴァンだった。おまえの母は、腕輪で輝く巫女フレーディス……。
ヒュンドラは、名を次々に挙げていった。スキョルドゥングの第一人者ハールヴダン、その妻アルムヴェイグが生んだ十八人の息子たち。東のボルムで生まれた、狂戦士の荒々しさで陸と海を火のように駆けたアルングリームの息子たち。ヨルムンレクの息子たち。ヴォルスングの血を引き、軍勢の敵であり、竜ファーヴニルを殺したシグルズ。ギューキの跡継ぎグンナルとホグニ、その妹グズルーン――。
そしてヒュンドラは、何度も繰り返した。みなおまえの親族だ、愚かなオッタルよ。
短い世界の予言
系譜の途中に、詩は世界の始まりと終わりを語る短い予言をはさんでいる。
バルドルが死の丘に倒れたとき、神々は十一人だった。ヴァーリがすばやく、兄弟を殺した者を討って仇を返した。フレイの妻は、巨人の一族ギュミルの娘ゲルズである。
昔、世界の果てで、九人の女巨人が、一人の力ある者を生んだ。その者は大地の力と、氷のような海と、豚の血で強くされた。
ロキはアングルボザとのあいだに狼フェンリルをもうけ、スヴァジルファリとのあいだにスレイプニルを生んだ。ロキは燃えさしの中にあった半焼けの女の心臓を食べ、そのために身ごもった。人の世のあらゆる怪物は、そこから生まれたのだという。
嵐に追われた海は天にまで届き、大地にあふれ、空は実りを失う。雪と荒れ狂う風が続く。神々は滅びに定められ、終わりは死である。
そのあと、さらに偉大な者がやって来る。けれどもその名を、わたしは口にする勇気がない。オーディンが狼と出会う時より先を見通せる者は、いまではもうわずかしかいない。
記憶のビールと別れの言葉
フレイヤは言った。わたしの猪に、記憶のビールを持ってきておくれ。おまえがよく語ってくれた言葉を、三日後の朝、オッタルとアンガンチュールが互いの一族を語り合うときまで、覚えていられるように。
ヒュンドラは言った。ここから去れ。わたしは眠りたいのだ。わたしから良いものは、もうほとんど得られまい。高貴なお方よ、おまえは夜な夜な外へ跳び出していく。山羊のなかを行くヘイズルーンのように。おまえはいつも自分を愛してくれたオーズのもとへ走っていった。それに、おまえのエプロンの下には大勢がもぐりこんだ。
フレイヤは言った。巨人の女よ、おまえのまわりに炎を立ててやろう。焼かれずには出ていけないように。
ヒュンドラは言った。炎が燃えているのが見える。大地が燃えている。誰もが命の代価を失うのだ。それならオッタルに、そのビールを持っていくがいい。悪い運命のための、毒に満ちた飲み物を。
フレイヤは言った。巨人の女よ、おまえの恐ろしい脅しがどれほど苦くても、悪い言葉が害をなすことはない。わたしがすべての神々の好意を得られれば、オッタルはきっと良い飲み物を手にするだろう。
出典について:本稿は『古エッダ』の「ヒュンドラの歌」に基づく再話です(英訳は H・A・ベロウズ訳、1923年)。この詩は『古エッダ』の主要な写本にはなく、1400年ごろの写本『フラテイヤルボーク』に伝わります。英訳者ベロウズは、英雄の系譜を語る「ヒュンドラの歌」と、スノッリが「短い巫女の予言」と呼んだ別の詩の断片とが、写本の段階で一つにつなぎ合わされたものと考えています。写本には話し手の名がなく、話し手の区別は訳者によります。猪がオッタルの変身であることはヒュンドラの言葉で、フレイヤは否定しています。オッタルの賭けの結末は、詩には語られていません。系譜の名は多いため、本稿ではその一部だけを挙げました。
出典・資料
- 『古エッダ』Bellows訳・神々の歌と英雄詩 — 作品別の詩名・節を本文制作時に特定する
