ENCYCLOPEDIA · 北欧神話
シグムンド
Sigmundr
ヴォルスング王の長男で、シグルズの父。オーディンが樫の木に突き刺した剣をただ一人抜き、一族を滅ぼしたシゲイル王に仇を返した。最後の戦いでその剣が折れ、倒れた。
ヴォルスングの長男
シグムンドは、ヴォルスング王と、巨人フリームニルの娘リョーズのあいだに生まれた十人の息子の長男である。『ヴォルスンガ・サガ』によれば、シグムンドと娘シグニューは双子で、子どもたちのなかで最もすぐれ、美しかった。
シグニューがゴートランドのシゲイル王に嫁ぐ婚礼の夜、誰も知らない片目の老人がヴォルスング王の館に入ってきて、広間の中央に立つ樫の木に剣を柄まで突き刺し、これを抜いた者に贈ると言って去った。誰も抜けなかったその剣を、シグムンドだけがたやすく引き抜いた。シゲイル王が剣の重さの三倍の金で買おうとしても、シグムンドは譲らなかった。英訳の注は、この老人をオーディンとしている。
一族の仇討ち
シゲイル王はヴォルスング王を討ち、捕らえたシグムンドの兄弟たちは森で一人ずつ牝狼に食い殺された。シグムンドだけが生きのび、シグニューの助けを受けて森の地下の家に隠れ住んだ。
シグニューは魔女と姿を取りかえてシグムンドのもとに三夜とどまり、男の子シンフィヨトリを生んだ。シグムンドはその子をシゲイルの子と思ったまま、森で鍛え上げた。二人は呪われた狼の皮を着て狼の姿で暮らしたこともある。やがて二人はシゲイル王の館に火を放ち、シグニューは兄とわが子に口づけしてから炎の中へ戻り、王とともに死んだ。シグムンドは父の国へ帰って王となった。
王となったシグムンド
シグムンドはボルグヒルドを妃とし、息子ヘルギとハームンドが生まれた。『古エッダ』の英雄詩に歌われるフンディング殺しのヘルギは、このシグムンドとボルグヒルドの子である。シンフィヨトリが妃の兄弟を殺すと、ボルグヒルドは毒を入れた角杯でシンフィヨトリを死なせた。シグムンドは亡骸を抱いて森を歩き、小舟の男に亡骸を渡すと、舟も男も消えた。シグムンドはボルグヒルドを国から追い出した。
『古エッダ』の「シンフィヨトリの死について」の散文は、シグムンドをフランク人の国の王とし、毒の角杯の話を少し違う言葉で伝える。「ヒュンドラの歌」には、オーディンがシグムンドに剣を贈ったとうたう節がある。
折れた剣
年老いたシグムンドは、エュリミ王の娘ヒョルディースを妻に迎えた。同じく求婚して退けられたフンディング王の息子リュングヴィが大軍で攻めてくると、シグムンドは迎え撃った。戦いのさなか、青い外套につばの垂れた帽子をかぶった片目の男が現れて槍斧を向け、シグムンドの剣はそれに当たって二つに折れた。王の運は去り、シグムンドは倒れた。
その夜、ヒョルディースが死者のあいだに倒れたシグムンドを見つけると、王は、オーディンが望まない以上もう剣を振るうつもりはないと言い、彼女が男の子を身ごもっていること、その子が一族で最も名高い者になること、剣のかけらを大切に保てばその子のために名剣グラムが作られることを告げて死んだ。その子がシグルズである。
登場する物語
- シンフィヨトリの死――三度の角杯恋の争いで王妃ボルグヒルドの兄弟を殺したシンフィヨトリに、王妃は葬宴で毒の角杯を三度差し出す。二度は父シグムンドが代わりに飲みほしたが、三度目に息子は倒れた。亡骸を抱いた父の前に、小舟の渡し守が現れる。
- フレイヤとヒュンドラ――オッタルの系譜女神フレイヤは洞窟の女巨人ヒュンドラを起こし、お気に入りの若者オッタルの先祖を語らせる。金の猪に乗る女神と、皮肉を返す女巨人。長い系譜と小さな世界の予言のあと、二人は激しい言葉を交わして別れる。
- 剣グラムとグリーピルの予言レギンの鍛えた剣は二度とも金床で折れた。シグルズが母から父の折れた剣のかけらを受け取ると、レギンは刃に炎が走るような剣を鍛えあげる。剣グラムを得たシグルズは、伯父グリーピルを訪ねて自分の運命のすべてを聞く。
- ヘルギとシグルーン――戦いと婚姻ノルンたちに運命を織られて生まれたシグムンドの子ヘルギは、十五歳でフンディング王を討つ。望まぬ婚約から逃れたいヴァルキューリアのシグルーンに頼まれ、ヘルギは大船団で嵐の海を渡り、フレカステインの戦いに勝つ。けれども、その勝利には大きな代償があった。
- シギ、レーリル、ヴォルスング――英雄の一族の始まりオーディンの息子と呼ばれたシギは、狩りで負けた奴隷を殺して国を追われ、やがてフン族の国の王となる。その子レーリルは父の仇を討ち、神々の林檎によって世継ぎを授かる。こうして生まれたヴォルスングから、英雄の一族の物語が始まる。
- 大木に刺さった剣とシグムンドシグニューとゴートランド王シゲイルの婚礼の宴に、片目の老人が現れ、館の大木に剣を突き刺す。誰も抜けなかった剣を、シグムンドだけがたやすく抜いた。剣を買い損ねたシゲイルは何食わぬ顔で一族を自国へ招くが、シグニューは災いを予感していた。
- シグムンドの最後の戦いと折れた剣老王シグムンドは、若い求婚者をしりぞけて自分を選んだヒョルディースを妻に迎える。だが恨んだリュングヴィ王の大軍との戦いで、片目の男の槍斧に剣を砕かれ、倒れる。死の床の王は、身ごもった妻に剣のかけらを託した。
- シグニューの復讐とシンフィヨトリ父ヴォルスング王と兄弟たちを夫シゲイルに殺されたシグニューは、ただ一人生き残った兄シグムンドを森にかくまい、復讐の時を待つ。そのために生まれた息子シンフィヨトリ、狼の皮の試練、塚からの脱出、燃える館。苛烈な復讐の物語。
- 父の仇を討つシグルズ――嵐の海の老人剣グラムを手にしたシグルズは、竜より先に父シグムンドの仇を討つと決め、大船団で海へ出る。嵐のなか岬の岩から乗りこんだ謎の老人は、戦いの前兆を語って消えた。シグルズはフンディングの息子たちを討ち果たす。
関連する事典項目
出典
- 『古エッダ』Bellows訳・神々の歌と英雄詩
- 原題
- The Poetic Edda
- 該当箇所
- 作品別の詩名・節を本文制作時に特定する
- 参照訳
- Henry Adams Bellows, The Poetic Edda (1923)
2026-10-28、収録目次を確認。詩ごとの本文確認は未実施。既存の採用詩の章別レコードは維持する。
- 『ヴォルスンガ・サガ』
- 原題
- Völsunga Saga: The Story of the Volsungs and Niblungs
- 該当箇所
- I–XLIII。1888年版の章立てを起点とする
- 参照訳
- Eiríkr Magnússon and William Morris; edited by H. Halliday Sparling, Walter Scott (1888)
2026-10-28、章立てと目次を確認。サガ本文を全章照合した記録ではない。エッダの英雄詩や大陸のニーベルンゲン伝承を同一版として混ぜない。
