ENCYCLOPEDIA · 北欧神話
グラニ
Grani
スレイプニルの血を引く、シグルズの灰色の馬。竜ファーヴニルの黄金を運び、シグルズを乗せて炎を越えた。主人が殺されたときには地にうなだれたと語られる。
スレイプニルの血を引く馬
『ヴォルスンガ・サガ』によれば、シグルズは馬を選びに森へ向かう途中、長いひげの見知らぬ老人に出会った。老人の助言で馬の群れを深い川へ追いこむと、一頭を除いてみな岸へ泳ぎ戻った。残った一頭は灰色の若い馬で、大きく美しく、まだ誰も背に乗ったことがなかった。老人は、この馬はスレイプニルの血を引き、よく育てればあらゆる馬のなかで最もすぐれた馬になると言って姿を消した。この馬がグラニである。サガの本文は、この老人がオーディン自身だったと述べている。
黄金と炎
ファーヴニルを倒したシグルズが竜の黄金を二つの大きな箱に詰めてグラニの背に載せると、グラニは打たれても動かなかった。シグルズがその心を悟って背に跳び乗り拍車を当てると、グラニは荷がないかのように駆け出した。
ブリュンヒルドの館を囲む炎を越えるとき、グンナルの馬は炎を踏もうとせず、グンナルはシグルズにグラニを借りた。それでもグラニは動かなかった。グンナルの姿になったシグルズが乗って拍車を当てると、グラニは炎のなかへ跳びこんだ。
シグルズが殺されたあと、グズルーンは、グラニが深い傷を負った主人を見て大きく騒ぎ、話しかけると地にうなだれた、シグルズが死んだことを知っていたのだ、と語る。
登場する物語
- 眠る戦乙女とシグルズヒンドフェルの山上に燃える火の中、盾をめぐらせた砦で、武装したまま眠る者がいた。シグルズが鎖帷子を裂くと、目覚めたのはオーディンに眠らされた戦乙女ブリュンヒルドだった。乙女はルーンの知恵と生きるための忠告を授け、二人は誓いを交わす。
- ブリュンヒルドの冥府への旅火葬の炎のあと、ブリュンヒルドは車に乗って死者の国への道を行く。岩の住まいの女巨人に「ギューキの子らを滅ぼした女」とののしられ、彼女は自分の生涯を語りはじめる。白鳥の衣、オーディンの怒り、炎の館、欺かれた婚礼――そして最後に言う。「沈め、女巨人よ」。
- アトリとの結婚と兄弟への招き忘れ薬を飲まされたグズルーンは、意に反してフン族の王アトリに嫁ぐ。黄金を狙うアトリは兄弟たちを宴に招き、グズルーンは狼の毛を結んだ腕輪で警告したが、使者はルーンを書き換えていた。妻たちの不吉な夢を退け、グンナルとホグニは旅立つ。
- シグルズを悼むグズルーン夫シグルズの亡骸のそばで、グズルーンは泣くことさえできなかった。女たちが自分の悲しみを語っても、涙は出ない。ゴッルロンドが覆いを取って夫の顔を見せたとき、ようやく涙があふれる。『古エッダ』の二つの「グズルーンの歌」が伝える嘆き。
- ノルナゲストと命の蝋燭キリスト教の王オーラヴ・トリュッグヴァソンの宮廷に、ゲストと名のる不思議な客が現れる。シグルズに仕え、古い英雄たちの宮廷を渡り歩いたという男は、生まれたときノルンに定められた運命――蝋燭が燃えつきるまでの命――を語り、最後に自分の蝋燭に火をつけさせる。
- オッドルーンの嘆き難産に苦しむ乙女ボルグニュを呪文で救ったオッドルーンは、その枕もとで自分の過去を語りはじめる。アトリの妹として生まれ、グンナルを愛し、ひそかに会い、そして蛇の穴の竪琴の音を聞きながら、愛する人を救えなかったこと。
- 鳥の言葉とレギンの結末竜の心臓を焼いていたシグルズは、指についた血をなめた途端、鳥たちの言葉が分かるようになる。鳥たちはレギンのたくらみを告げ、炎の館に眠る乙女のことを歌った。シグルズはレギンを討ち、竜の黄金を馬グラニに積んで旅立つ。
- シグルズ、グズルーン、炎を越える婚礼ギューキ王の娘グズルーンは不吉な夢を見て、ブリュンヒルドにその意味を聞く。やがて館に来たシグルズは、王妃グリームヒルドの忘れ薬でブリュンヒルドを忘れ、グズルーンと結婚する。そしてグンナルの姿になり、炎の館のブリュンヒルドを義兄のために勝ち取ってしまう。
- フリュムダリルでの出会いと約束竜を描いた金の武具に身を包んだシグルズは、首長ヘイミルの館に客となる。ある日、鷹を追って塔へ上ると、自分の偉業を布に縫いこむブリュンヒルドがいた。「あなたはギューキの娘グズルーンと結婚する」と告げる乙女に、シグルズは誓いを重ねる。
- 王妃たちの争いとシグルズの死川辺の言い争いで、炎を越えたのはシグルズだったという秘密が露見する。欺かれたと知ったブリュンヒルドは夫グンナルにシグルズの死を求め、誓いに縛られない弟グットルムが眠るシグルズを刺す。英雄の死と、そのそばで焼かれることを選んだブリュンヒルドの最期。
- シグルズの成長と馬グラニ亡き父シグムンドの子シグルズは、デンマークのヒャールプレク王の館で育ち、鍛冶の名手レギンに学ぶ。森で出会った長いひげの老人の助けで、スレイプニルの血を引く馬グラニを選んだシグルズに、レギンは竜ファーヴニルの黄金の話をもちかける。
関連する事典項目
出典
- 『ヴォルスンガ・サガ』
- 原題
- Völsunga Saga: The Story of the Volsungs and Niblungs
- 該当箇所
- I–XLIII。1888年版の章立てを起点とする
- 参照訳
- Eiríkr Magnússon and William Morris; edited by H. Halliday Sparling, Walter Scott (1888)
2026-10-28、章立てと目次を確認。サガ本文を全章照合した記録ではない。エッダの英雄詩や大陸のニーベルンゲン伝承を同一版として混ぜない。
