NORSE · STORY
王妃たちの争いとシグルズの死
川辺の言い争いで、炎を越えたのはシグルズだったという秘密が露見する。欺かれたと知ったブリュンヒルドは夫グンナルにシグルズの死を求め、誓いに縛られない弟グットルムが眠るシグルズを刺す。英雄の死と、そのそばで焼かれることを選んだブリュンヒルドの最期。
川辺の言い争い
ある日、王妃たちが川へ水浴びに行った(物語「シグルズ、グズルーン、炎を越える婚礼」)。ブリュンヒルドは、誰よりも遠く沖へ歩いて入っていった。グズルーンが、それはどういうつもりかと尋ねた。
ブリュンヒルドは言った。ほかのことと同じように、このことでも、どうしてあなたと対等でなければならないの。わたしの父はあなたの父より力があるし、わたしの夫は数々の名高い偉業をなしとげ、燃える炎を越えてきた。あなたの夫は、ヒャールプレク王の奴隷にすぎなかったのに。
グズルーンは怒って答えた。わたしの夫を悪く言うより、黙っていたほうが賢いでしょうに。この世に彼に並ぶ者は誰もいないと、皆が言っている。それに、最初に愛した人をあざけるのは、あなたにいちばんふさわしくない。ファーヴニルを殺したのは彼。あなたがグンナル王だと思っていたとき、あなたの炎を越えて隣に寝て、あなたの手からアンドヴァリの腕輪を受け取ったのも彼。ほら、これを見るがいい。
ブリュンヒルドはその腕輪を見て、それと分かった。死んだ女のように青ざめ、家へ帰ると、その晩はひと言も口をきかなかった。
翌日、二人は部屋でまた言い争った。ブリュンヒルドは言った。グリームヒルドこそ、この災いの始まり。あの人が悪い飲み物をシグルズに飲ませたので、彼はわたしの名さえ忘れてしまった。グズルーンは、それはとんでもないうそだと言い返した。ブリュンヒルドは言った。あなたたちは、ふさわしくないやり方でわたしを欺いた。その報いを受けるがいい。
伏せったブリュンヒルド
それからブリュンヒルドは床に伏した。見舞いに来たグンナルに、彼女は言った。
父ブズリ王は、わたしに二つしか道がないと言った。父の望む者と結婚するか、財産も父の友情も失うか。わたしは争っても無駄だと思い、グラニに乗り、ファーヴニルの宝を持ち、わたしの炎を越えてくる者と結婚すると約束した。それができたのはシグルズだけ。あなたは何もできず、死人のように青ざめていた。いちばん気高い人だけを愛すると父に誓ったのに、わたしは誓いを破ってしまった。だから、わたしはあなたの死をはかる。
そしてグンナルに打ちかかろうとしたので、ホグニが彼女に縛めをかけた。けれどもグンナルは、縛っておくことを望まなかった。
ブリュンヒルドは、もう二度とあなたの館で楽しむことも、布に金をかぶせることもないと言い、刺繍の布を引き裂き、部屋の戸を開け放たせて、嘆きの声を遠くまで響かせた。七日七晩、彼女は眠ったように伏せ、誰も起こせなかった。
シグルズの訪問
グンナルもホグニも、話をしてもらえなかった。シグルズは、ブリュンヒルドは眠っているのではなく、わたしに恐ろしいことをたくらんでいるのだと言った。グズルーンは泣いて、あなたの死が恐ろしい、会いに行って、金を与えて怒りを鎮めてほしいと頼んだ。
シグルズがブリュンヒルドの部屋へ行くと、彼女は言った。よくもわたしのところへ来られたものね。この裏切りで、あなたほどわたしにひどいことをした者はいない。炎を越えてきたのはグンナルではなかった。館に入ってきたあの人を見て、あなたの目を知っていると思ったのに、運命に重くかかったとばりのせいで、はっきり見分けられなかった。
シグルズは、ギューキの息子たちほど気高い者はいない、あなたは自分で選んだ人を夫にしたのだと言った。けれどもブリュンヒルドは言った。いちばんの悲しみは、苦い剣がまだあなたの血で赤く染まっていないこと。
シグルズは言った。恐れることはない。その剣がわたしの心臓深く刺さる日は、もう遠くない。だがあなたも、わたしが死んだあと生きてはいまい。わたしたち二人に残された日々は、もうわずかだ。どうか生きて、グンナル王とわたしを愛してくれ。死なないでくれるなら、わたしの富をすべてあげよう。
シグルズは打ち明けた。わたしは自分自身よりあなたを愛していた。それでも、わたしたちの命が逃れられない策略に落ちてしまった。わたしの心がはっきりしていたときには、あなたが妻でないことを深く嘆いた。婚礼の時まで、あなたの名を思い出すことも、あなたを見分けることもできなかった。それが何より大きな悲しみだ。
ブリュンヒルドは言った。わたしは、炎を越えてきた者と結婚すると誓った。その誓いを守るか、さもなければ死ぬ。
シグルズは言った。あなたが死ぬくらいなら、グズルーンを捨てて、あなたと結婚しよう。
そう言ったとたん、シグルズの胸は脇腹のあいだでふくれあがり、鎖帷子の輪がはじけ飛んだ。
ブリュンヒルドは言った。あなたも、ほかの誰も、わたしは望まない。
シグルズは部屋を出ていった。
グンナルの決心
ブリュンヒルドはグンナルに言った。シグルズとその息子を殺さなければ、あなたは国も富も命も、そしてわたしも失う。わたしは親族のもとへ帰って嘆いて暮らす。狼の子を育ててはいけない。
グンナルの心は重く沈んだ。シグルズとは誓いで結ばれていたので、心はあちらこちらへ揺れた。けれども、妻に去られる大きな恥を思い、ブリュンヒルドはわたしにとって何よりも大切だ、彼女の愛を失うくらいなら命を捨てようと考えた。
グンナルは弟ホグニを呼び、シグルズを殺さねばならないと告げた。ホグニは答えた。誓いを破って悪事を働くのはよくない。シグルズはわたしたちの大きな助けだ。あれほどの義兄弟は二度と得られない。これはブリュンヒルドがけしかけたことで、彼女の考えはわたしたちを大きな恥と害に引きずりこむだろう。
それでもグンナルは言った。シグルズが死ぬか、わたしが死ぬかだ。誓いに加わっていない若い弟グットルムにやらせよう。
二人はグットルムに金と大きな支配を約束し、蛇と狼の肉をいっしょに煮て食べさせた。その肉を食べ、グリームヒルドの重い言葉もあって、グットルムは荒々しく猛々しくなり、その役を引き受けた。シグルズは、こうした悪いたくらみを何も知らなかった。
寝床の一突き
翌朝、グットルムはシグルズの寝ているところへ入っていったが、何もできずにあとずさりした。二度目も同じだった。シグルズの目があまりに鋭く輝いていて、まともに見られる者はほとんどいなかったのである。
三度目に入っていくと、シグルズは眠っていた。グットルムは剣を抜いてシグルズを刺し通した。剣の切っ先は、下の寝床にまで突き刺さった。
シグルズはその傷で目を覚ました。グットルムは戸口へ逃げようとした。シグルズは剣グラムをつかんで投げつけた。剣はグットルムの背に当たり、その体を真ん中から断ち切った。足は一方に、頭と手は部屋の中へ倒れた。
シグルズの胸で眠っていたグズルーンは、彼の血の海の中で目を覚まし、言葉にならないほど嘆き悲しんだ。シグルズは枕の上に身を起こして言った。
泣くな。おまえの兄弟たちは生きている。だが、わたしには幼い息子がいる。まだ若すぎて、敵に気をつけることもできない。あの者たちは、自分の運を損なう悪いことをした。これほど力ある義兄弟を、二度と得ることはないだろう。昔予言されていたことが、いま起こったのだ。それはわたしの目から隠されていた。誰も自分の運命と戦って勝つことはできない。これはブリュンヒルドがしたことだ。誰よりもわたしを愛している、あの人が。だが誓って言う。わたしはグンナルに一度も悪いことをしなかった。いつも彼との誓いを固く守ってきた。彼の妻と親しくしすぎたこともない。
そう言うと、王は息絶えた。
笑ったブリュンヒルド
グズルーンがうめいて苦しい息をつくと、それを聞いたブリュンヒルドは笑った。
グンナルは言った。おまえは心の底から喜んで笑っているのではない。そうでなければ、どうしてそんなに顔が青ざめていくのか。おまえは悪しき者だ。きっと死が近いのだろう。
グズルーンは兄弟たちに言った。わたしの親族が、わたしの夫を殺した。でも、あなたがたが次に戦に出て、戦いのさなかに見回したとき、シグルズが右にも左にもいないことに気づくでしょう。そして、彼こそがあなたがたの幸運であり、力だったと知るでしょう。
同じ火の上で
ブリュンヒルドはグンナルに言った。あなたがたは誓いを破った。シグルズと血を混ぜ合わせたことも忘れて、彼がしてくれたあらゆる善いことに、悪い報いで応えた。彼がどれほど固く誓いを守ったかは、わたしのところへ来て、毒で鍛えた鋭い剣を二人のあいだに置いたことで、はっきり示されていたのに。
グンナルは彼女の首に腕をまわし、生きて富を受けてくれと頼んだ。ほかの者たちも死ぬのを止めようとしたが、ブリュンヒルドは皆を押しのけた。ホグニは言った。死なせてやれ。あの人は、ここへ来てから一度もわたしたちのためになったことがない。
ブリュンヒルドは多くの金を持ってこさせ、欲しい者は取りに来いと言った。そして剣を取って自分の脇の下に突き刺し、枕にもたれて、さあ金を取りなさい、と言った。
息を引き取る前に、ブリュンヒルドは、これから起こることを語った。グズルーンは母グリームヒルドの計らいで兄弟と和解し、意に反してアトリに嫁ぐ。シグルズとグズルーンの娘はスヴァンヒルドと呼ばれ、生まれた女のなかで最も美しい。グンナルはオッドルーンを望むがアトリに許されず、ひそかに会う。アトリはグンナルを蛇の穴に投げこみ、そのあとアトリとその息子たちはグズルーンに殺される。グズルーンは波に運ばれてヨーナク王のもとへ行き、名高い息子たちを生む。スヴァンヒルドはヨルムンレク王に嫁がされ、ビッキの企みの犠牲になる。こうしてあなたがたの一族は絶える、と。
そして最後の願いを告げた。野に大きな火葬の薪を積み、わたしとシグルズとともに殺された者たちを焼いてほしい。わたしをフン族の王の片側で焼き、あいだには、かつて二人が一つの寝床に入ったときのように、抜き身の剣を置いてほしい。そうすれば、わたしたちは夫と妻と呼ばれるだろう。
シグルズの亡骸は古いならわしどおりに整えられ、大きな薪が積まれた。火がつくと、その上に竜殺しシグルズの亡骸と、ブリュンヒルドが殺させた三歳の息子、そしてグットルムが置かれた。薪がすっかり燃え上がると、ブリュンヒルドが運び出された。侍女たちに金を分け与えたあと、ブリュンヒルドは息絶え、シグルズのそばで焼かれた。こうして二人の生涯は終わった。
出典について:本稿は『ヴォルスンガ・サガ』第28〜30章と第32章に基づく再話です(英訳はエイリークル・マグヌーソンとウィリアム・モリスの訳、H・H・スパーリング編、1888年)。第31章は、英訳の注によれば、英訳者が『古エッダ』の「グズルーンの歌 第一」を挿入した章で、本稿では扱っていません(物語「シグルズを悼むグズルーン」)。『古エッダ』の英雄詩には、シグルズが死んだ場所や事情を別の形で伝えるものがありますが、今回はそれらの詩と照合せず、サガの語りだけを述べました。
出典・資料
- 『ヴォルスンガ・サガ』 — I–XLIII。1888年版の章立てを起点とする
