NORSE · STORY
シグルズ、グズルーン、炎を越える婚礼
ギューキ王の娘グズルーンは不吉な夢を見て、ブリュンヒルドにその意味を聞く。やがて館に来たシグルズは、王妃グリームヒルドの忘れ薬でブリュンヒルドを忘れ、グズルーンと結婚する。そしてグンナルの姿になり、炎の館のブリュンヒルドを義兄のために勝ち取ってしまう。
ギューキの一族
ライン川の南に、ギューキという王がいた。息子が三人いて、グンナル、ホグニ、グットルムといい、娘はグズルーンといった。グズルーンは乙女たちのなかで最も美しかった。子どもたちは皆、どの王の子らよりも勇ましく、立派で、大きく育った。ギューキ王の妻は、賢女グリームヒルドで、気性の激しい女だった。
ブズリという王は、ギューキよりもさらに力があった。アトリはブリュンヒルドの兄弟で、荒々しく恐ろしい男だった。大柄で色が黒かったが、気高い顔立ちをしていて、最も偉大な戦士だった。
グズルーンの夢
ある日、グズルーンは侍女たちに、心に喜びがないと言った。夢で悲しみが訪れたのだという。
わたしは、金の羽の美しい鷹を手首にとまらせている夢を見た。この鷹ほどいとしいものはなく、ほかの財産をすべて捨ててもこの鷹がほしいと思った。侍女の一人は、それはあなたが迎える立派な夫で、あなたはその人を深く愛するでしょうと言った。誰がその人なのか分からないのがつらい、ブリュンヒルドならきっと知っているだろう、とグズルーンは言った。
グズルーンは金と美しいもので身を飾り、侍女たちと金色の車に乗って、高い丘の上にあるブリュンヒルドの館へ行った。ブリュンヒルドは、昨夜その人の夢を見たと言って、喜んで迎えた。
二人が偉大な王たちの話をしていると、ブリュンヒルドは言った。わたしは、あなたの兄弟たちより、はるかにすぐれた人を一人知っている。シグムンド王の息子シグルズである。若くしてフンディングの息子たちを討ち、父と祖父の仇を返した。
グズルーンは言った。その知らせは、愛から得たものなのね。けれど、わたしがここへ来たのは、悲しい夢の話をするためなのです。
グズルーンは、もう一つの夢を語った。大勢で部屋から出かけると、ほかのどの鹿よりもすばらしい、金の毛の大きな鹿がいた。皆が捕らえたがったが、わたし一人がそれを得た。何よりも大切に思っていたのに、あなたが、わたしの膝もとでその鹿を射殺した。わたしは悲しみに耐えられないほどだった。そのあとあなたは狼の子をわたしにくれ、その子はわたしに兄弟たちの血を浴びせた。
ブリュンヒルドは言った。これから起こることのとおりに、その夢を解きましょう。わたしが愛する人に選んだシグルズが、あなたのもとへ来る。グリームヒルドが、害のあるものを混ぜた蜜酒を彼に飲ませ、それがわたしたち皆を大きな争いに投げこむ。あなたは彼を得るが、すぐに失う。そしてアトリ王と結婚し、兄弟たちを失い、最後にはアトリを殺すことになる。
グズルーンは、そんなことになると知るのは悲しい、と言って家へ帰った。
忘れ薬の角杯
シグルズは大きな宝を持ってヘイミルの館の人々と親しく別れ、グラニに乗ってギューキ王の館に来た(物語「フリュムダリルでの出会いと約束」)。王の家来は、神々の一人が来たのかと思った。王が名を尋ねると、シグムンド王の息子シグルズだと答え、王は心から歓迎した。
シグルズは館で大いに敬われて過ごし、グンナルやホグニとよく馬で出かけたが、いつも誰よりも先を行った。
王妃グリームヒルドは、シグルズがどれほど深くブリュンヒルドを愛し、たびたび彼女の話をするかに気づいた。そして、シグルズがここにとどまってギューキの娘と結婚すればどんなによいかと考えるようになった。彼ほど立派で、誠実で頼もしく、富のある者はいないからである。
ある晩、酒の席で、グリームヒルドはシグルズの前に進み出て角杯を差し出した。シグルズは受け取って飲んだ。グリームヒルドは言った。ギューキ王があなたの父に、わたしがあなたの母に、グンナルとホグニがあなたの兄弟になりましょう。それを互いに誓い合えば、あなたがたに並ぶ者は地上にいなくなるでしょう。
シグルズはその言葉を快く受けた。その飲み物を飲んだことで、ブリュンヒルドの記憶は、すっかりシグルズから消えてしまったのである。
グズルーンとの結婚
グリームヒルドはギューキ王を説き、王もこの人に娘を差し出すのはむしろ名誉だと考えた。ある夜、グズルーンが酒を注いだとき、シグルズは彼女の美しさと礼儀正しさに目をとめた。
シグルズは、五つの季節のあいだ、そこにとどまった。王たちは、シグルズに領地を与え、ほかの者がいくら頼んでも得られない妹を、頼まれずとも与えると言った。シグルズは喜んで受けた。彼らは、同じ父と母の子であるかのように義兄弟の誓いを立て、婚礼の宴は何日も続いた。
その後、彼らは世界の各地へ出かけて多くの偉業をなし、たくさんの富を持ち帰った。シグルズは竜の心臓をグズルーンに分けて食べさせた。グズルーンは前より心が大きく、賢くなった。二人のあいだには、シグムンドという息子が生まれた。
炎の館への求婚
あるとき、グリームヒルドは息子グンナルに言った。おまえの暮らしは順調だが、一つだけ足りない。妻がいないことだ。ブリュンヒルドに求婚しなさい。シグルズもいっしょに行ってくれるだろう。
一行はブズリ王を訪ねて娘に求婚した。王は、娘が拒まなければよいが、あの子は誇りが高く、自分の望む者としか結婚しないと言った。フリュムダリルのヘイミルも同じことを言い、彼女は館のまわりに張りめぐらせた炎を越えてくる者だけを選ぶだろう、と告げた。
館に着くと、黄金の棟をもつ砦のまわりで、火が轟々と燃え上がっていた。グンナルが馬ゴティを火に向けると、馬はしり込みした。シグルズの馬グラニを借りても、グラニは少しも動かなかった。
そこで二人は、グリームヒルドに教わっていたとおり、互いの姿を取りかえた。グンナルの姿になったシグルズは、グラムを手に、金の拍車をつけてグラニにまたがった。拍車を感じると、グラニは火の中へ跳びこんだ。炎はいっそう激しく燃えて天まで上り、大地は揺れた。けれどもやがて火は沈み、シグルズは馬から跳び降りて館に入った。
二人のあいだの剣
館の中にはブリュンヒルドが座っていた。誰か、と彼女は尋ねた。
シグルズは、ギューキの息子グンナルと名のった。あなたの父上と養父の同意によって、あなたはわたしの妻と定められた。そしてわたしは、あなたが立てた言葉どおりに、あなたの炎を越えてきた。
ブリュンヒルドは、兜をかぶり、鎖帷子を着て、剣を手に、波の上の白鳥のように座っていた。グンナルよ、と彼女は重い心で言った。あなたが誰よりもすぐれた者でないのなら、そんな話をしないで。わたしはギリシア人の王とともに戦い、武器を赤い血に染めてきた。いまでもそうしたことを望んでいるのに。
シグルズは言った。たしかにあなたは多くの偉業をなしとげた。だが思い出してほしい。この炎を越えてきた者についていくと、あなたは誓ったはずだ。
ブリュンヒルドはそれが本当だと分かって立ち上がり、ふさわしく彼を迎えた。シグルズは三夜そこにとどまり、二人は同じ寝床に横たわった。けれどもシグルズは剣グラムを二人のあいだに置いた。なぜそうするのかと尋ねられると、こうしなければ妻を迎えられないか、さもなければ自分が死を招くのだ、と答えた。
ブリュンヒルドは、以前にシグルズから贈られたアンドヴァリの腕輪を外して彼に与えた。シグルズは、ファーヴニルの宝から別の腕輪を彼女に与えた。
思い出された誓い
シグルズは同じ炎を越えて仲間のもとへ戻り、グンナルと姿を取りかえして、フリュムダリルへ戻った。
その日、ブリュンヒルドは養父ヘイミルのもとへ行き、信頼する人として打ち明けた。グンナルと名のる王がわたしの炎を越えて求婚に来た。けれども、そんなことができるのはシグルズだけだ。山の上で誓いを交わした、わたしの最初の誓いの相手で、いとしい人だ。ヘイミルは、もうこうなった以上、そのままにするしかないと言った。
ブリュンヒルドは言った。わたしとシグルズの娘アスラウグを、ここであなたが育ててください。
王たちは国へ帰り、ブリュンヒルドは父のもとへ行った。盛大な宴が開かれ、ブズリ王が娘ブリュンヒルドと息子アトリを連れてやって来た。その宴で、グンナルはブリュンヒルドと結婚した。
宴が終わると、シグルズは、自分がブリュンヒルドに立てた誓いを、すべて思い出した。それでも彼は、すべてを静かにそのままにしておいた。
出典について:本稿は『ヴォルスンガ・サガ』第25〜27章に基づく再話です(英訳はエイリークル・マグヌーソンとウィリアム・モリスの訳、H・H・スパーリング編、1888年)。滞在期間は採用英訳の「five seasons」に従い「五つの季節」とし、年数への換算はしていません。ブリュンヒルドとシグルズの娘アスラウグについて、サガはここで名を挙げるだけで、いつ生まれたかの経緯は書いていません。
出典・資料
- 『ヴォルスンガ・サガ』 — I–XLIII。1888年版の章立てを起点とする
