NORSE · STORY
眠る戦乙女とシグルズ
ヒンドフェルの山上に燃える火の中、盾をめぐらせた砦で、武装したまま眠る者がいた。シグルズが鎖帷子を裂くと、目覚めたのはオーディンに眠らされた戦乙女ブリュンヒルドだった。乙女はルーンの知恵と生きるための忠告を授け、二人は誓いを交わす。
山上の炎
シグルズは黄金を積んだグラニに乗り(物語「鳥の言葉とレギンの結末」)、長い道を進んで、ついにヒンドフェルの山に上った。そして南のフランク人の国へと道をとった。
山の上には、火が燃えているような大きな光が、天にまで届くほど燃え上がっているのが見えた。近づいてみると、目の前に、盾をぐるりと掛けめぐらせた砦があり、そのいちばん上には旗が立っていた。
シグルズが砦の中へ入っていくと、一人の者が、武具をすっかり身につけたまま眠っていた。シグルズがその頭から兜を取ると、それは男ではなく女だった。
女の着ている鎖帷子は、肉に生えついたかのように体にぴったりとしていた。シグルズは剣で、その鎖帷子を首から下へ切り裂き、袖も裂いた。剣は、布を切るように鎖帷子を切り裂いた。
目覚めた乙女
シグルズは、あなたはずいぶん長く眠っていたと言った。女は尋ねた。
わたしの鎖帷子を裂いて、眠りから引き出したのは、どんな力あるものか。ああ、シグムンドの子シグルズが来たのか。ファーヴニルの兜を頭にかぶり、ファーヴニルを倒した剣を手にして。
シグルズは答えた。それをしたのは、ヴォルスングの一族の者だ。あなたは力ある王の娘で、美しく、知恵に満ちていると人から聞いた。それを確かめてみたい。
乙女は歌った。わたしは長く眠っていた。人の世の災いは多く、長い。オーディンの力によって、眠りの呪いを振り払えず、なすすべもなくとどまっていたのだ。戻ってきた昼に、昼の子らに、暗い夜とその娘に挨拶を。アース神族に、女神たちに、豊かに満ちた美しい大地に挨拶を。
眠りの棘
乙女――ブリュンヒルド――は、自分が眠っていたわけを語った。
二人の王が戦った。一人はヘルム・グンナルといって、年老いた、最も偉大な戦士で、オーディンはこの王に勝利を約束していた。その敵はアグナルといい、アウジの兄弟だった。わたしはその戦いで、ヘルム・グンナルを打ち倒した。
オーディンはその仕返しに、わたしに眠りの棘を刺した。そして、おまえはもう二度と勝利を得ることはない、嫁にやられるのだ、と言った。けれどもわたしはそれに対して誓いを立てた。恐れというものを知る男とは、決して結婚しないと。
ルーンの知恵
シグルズは言った。大いなる事柄の知恵を教えてくれ。
ブリュンヒルドは言った。あなたのほうが、わたしより何ごとにも通じているでしょう。それでも教えましょう。ルーンのことでも、ものごとの根にあるほかのことでも、わたしの知恵が少しでもあなたの役に立つなら、喜んで。さあ、いっしょに飲みましょう。神々がわたしたち二人によい日を与えてくれますように。わたしの知恵から、あなたがよい助けと名声を得られるように。そして、二人で話したことを、のちのちまで覚えていられるように。
ブリュンヒルドは杯を満たしてシグルズのもとへ運び、愛の飲み物を与えて歌った。
戦いのルーンを知れ。偉大になりたいのなら。それを固い剣の柄に刻め。刃の背にも、輝く刃の面にも。そしてテュールの名を二度、そこに唱えよ。
海のルーンを、船を救うために学べ。船尾に刻め、舵の刃に刻め。そうすれば、どれほど高い波でも、海の上から無事に家へ帰れる。
言葉のルーンをよく学べ。おまえが与えた苦しみの仕返しを、誰にもされたくないのなら。それを民会の場で、身のまわりに巡らせよ。
酒のルーンの知恵を知れ。ほかの者の妻に、おまえの信じる心を裏切られたくないのなら。それを蜜酒の角杯に、両手の甲に刻み、爪に印をつけよ。
助けのルーンを集めよ。産みの床に伏す母から子を解き放つ技を得たいのなら。枝のルーンを学べ。医術を愛し、傷の見立てを知りたいのなら。思いのルーンを扱え。誰よりも美しい魂をもち、誰よりも賢い者になりたいのなら。
乙女は、それらのルーンが刻まれたさまざまな場所をうたった。輝く神の前に立つ盾、スレイプニルの歯、熊の手、ブラギの舌、グングニルの穂先、グラニの胸、ノルンの爪、夜のふくろうのくちばし……。
そして最後に言った。さあ、選ぶがいい。差し出された選択のとおりに。歌か、沈黙か。それぞれを心の中で考えなさい。すべての災いは、もう定められているのだから。
シグルズは答えた。たとえわたしが死に定められていると、あなたが知っていても、わたしは決して逃げない。尻込みするために生まれたのではないのだから。あなたの大切な助言を、生きているかぎり心に正しく保とう。
生きるための忠告
シグルズは言った。広い世界に、あなたより賢い女はいないだろう。もっとあなたの知恵を教えてくれ。
ブリュンヒルドは、さらに多くの助言を与えた。
友と親族には親切にし、彼らの過ちに仕返しをするな。耐え、こらえよ。そうすれば、人々から長く続く称賛を得られる。
悪いことには気をつけよ。乙女の愛と、人の妻。そこからは、たびたび災いが起こる。
人の集まる場で、愚か者に心を乱されすぎるな。もし臆病者と呼ばれても、自分をそうだと思うことはない。そんな者は別の日に討って、その醜い言葉に報いよ。
悪いものがいる道を行くときは、よく用心せよ。たとえ夜になっても、街道のそばに宿をとるな。そこには人を迷わせる悪しきものがよく潜んでいるのだから。
宴で出会う美しい女に惑わされて、眠りや落ち着いた心を失ってはならない。酔った愚か者の言葉を聞いても、相手にするな。多くの悲しみ、ときには死さえも、そこから生まれる。
敵とは野で戦え。家の中で焼かれるな。偽りの誓いを立てるな。破った誓いの報いは大きく、恐ろしい。病で死んだ者、海で死んだ者、剣で死んだ者を、ていねいに扱え。
おまえが父や兄弟や近い親族を殺した者を、たとえ若くても、決して信じるな。若い狼も、やがて大きくなるのだから。
友のたくらみには、よく気をつけよ。わたしには、あなたの一生の行く末を見通す力はほとんどない。けれども、妻の家の人々から憎しみを受けることがなければよいのだが。
交わした誓い
シグルズは言った。人の子らのなかに、あなたより賢い者はいない。だからこそ誓おう。あなたをわたしのものにする。あなたはわたしの心のすぐそばにいるのだから。
ブリュンヒルドは答えた。たとえすべての男の子らのなかから選べるとしても、わたしはあなたを選ぶでしょう。
こうして二人は、互いに誓いを交わした。
出典について:本稿は『ヴォルスンガ・サガ』第20〜21章に基づく再話です(英訳はエイリークル・マグヌーソンとウィリアム・モリスの訳、H・H・スパーリング編、1888年)。英訳の注によれば、第20章の乙女の歌とルーンの詩節は、英訳者が『古エッダ』の「シグルドリーヴァの言葉」から補って挿入したものです。サガは眠る乙女をブリュンヒルドとしていますが、「シグルドリーヴァの言葉」では乙女はシグルドリーヴァと呼ばれ、資料によって扱いが分かれます。本稿はサガの語りに従いました。ルーンの詩は長いため、一部を要約しています。
出典・資料
- 『ヴォルスンガ・サガ』 — I–XLIII。1888年版の章立てを起点とする
