ENCYCLOPEDIA · 北欧神話
テュール
Týr
アース神族の大胆な神。狼フェンリルを縛るとき、偽りのない証しとして右手を狼の口に入れ、その手を失った。
最も大胆な神
テュールは、アース神族の神である。『散文のエッダ』「ギュルヴィたぶらかし」は、テュールを最も大胆で心の強さにすぐれ、戦いの勝利に大きな力を持つ神として紹介し、勇ましい者が呼びかけるのによいと語る。
人にまさって揺るがない者を「テュールのように勇敢」、最も賢い者を「テュールのように賢い」と言う言い回しもあったという。
狼の口に入れた右手
テュールの大胆さの証しとして語られるのが、狼フェンリルを縛った出来事である。神々のもとで育てられた狼に、餌を与えに近づく勇気があったのはテュールだけだった。
神々が魔法の紐グレイプニルで狼を縛ろうとしたとき、狼は解いてもらえると信じず、偽りのない証しとして誰かの手を口に入れるよう求めた。誰も手を失いたがらないなか、テュールが右手を差し出した。狼が縛られると、神々はみな笑ったが、テュールだけは笑わなかった。神々が狼を解かなかったため、狼はテュールの手を、いま「狼の関節」と呼ばれる所で噛み切った。
そのためテュールは片手であり、人々の仲裁者とは呼ばれない、と同じ書物は記している。
登場する物語
- 眠る戦乙女とシグルズヒンドフェルの山上に燃える火の中、盾をめぐらせた砦で、武装したまま眠る者がいた。シグルズが鎖帷子を裂くと、目覚めたのはオーディンに眠らされた戦乙女ブリュンヒルドだった。乙女はルーンの知恵と生きるための忠告を授け、二人は誓いを交わす。
- フェンリルを縛った紐――テュールの右手日ごとに大きくなる狼フェンリルを、神々は鉄の戒めで縛ろうとしたが果たせない。最後に用いたのは、絹のように柔らかな紐と、一人の神が差し出した右手だった。
- ロキの口論――エーギルの宴の騒動海の巨人エーギルの館の宴に、追い出されたロキが戻ってくる。席を求めたロキは、神々と女神たちに次々と悪口を浴びせ、最後に現れたトールの槌の脅しの前で、ようやく館を去る。『古エッダ』の「ロキの口論」。
- ロキの三人の子ども――狼と大蛇とヘルロキと女巨人アングルボザのあいだに生まれた三人の子は、神々に大きな災いをもたらすと予言されていた。オーディンは子らを連れてこさせ、大蛇を海へ、ヘルを死者の国へ投じ、狼だけを手もとで育てる。
- 最後の戦い――神々の黄昏ヘイムダルの角笛が神々を呼び起こし、ヴィーグリーズの野で最後の戦いが始まる。オーディンは狼に呑まれ、トールは大蛇と相打ちになり、フレイは剣のないまま炎の巨人に倒れる。最後にスルトの火が世界を焼きつくす。
- トールとヒュミルの大釜神々の宴の酒を醸すため、トールはテュールとともに巨人ヒュミルの大釜を求めて旅立つ。牡牛を平らげ、大蛇を釣り上げ、硬い杯を割り、ついに一マイルの深さの釜を頭にかついで帰る『古エッダ』の物語。
関連する事典項目
出典
- スノッリ・ストゥルルソン『散文のエッダ』「ギュルヴィたぶらかし」
- 原題
- Gylfaginning
- 該当箇所
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- 参照訳
- Arthur Gilchrist Brodeur, The Prose Edda (1916)
2026-10-28、収録計画のため目次と一部本文を確認。全記事の本文照合済みを意味しない。既存の章別出典レコードは変更しない。
