NORSE · STORY
オーディンとヴァフスルーズニルの知恵比べ
名を偽って巨人の館を訪れたオーディンは、首を賭けた問答に挑む。世界の始まりから神々の滅びのあとまでを問い合った末、最後の一問で巨人は客の正体を悟る。
フリッグの見送り
オーディンは妻フリッグに相談した。賢い巨人ヴァフスルーズニルを訪ね、古い知恵で自分と比べてみたいのだ、と。
フリッグは、神々の住まいにとどまってほしいと答えた。巨人たちのなかで、ヴァフスルーズニルほどの力をもつ者を自分は知らないからである。
それでもオーディンは言った。自分は多くの旅をし、多くを見つけ、神々から多くを得てきた。あの巨人がその高い館でどう暮らしているのかを知りたい。
フリッグは送り出した。無事に行き、無事に帰ってくるように。そして巨人と言葉を交わすときには、心を鋭く保つように、と。
床に立つ客
オーディンは巨人の館に入って呼びかけた。ヴァフスルーズニルよ、あなたに会いに来た。あなたが賢いのか、あらゆる知恵を得ているのかを、まず知りたい。
巨人は言った。わたしの館で話しかけるのは誰か。わたしより賢くなければ、おまえはここから出られない。
オーディンは名を偽った。自分はガグンラーズと呼ばれる者で、つらい旅をして喉を渇かせてここへ来た。長く旅をしてきたので、もてなしとやさしい挨拶を望む、と。
巨人は、なぜ床に立ったまま話すのか、席を与えよう、と言った。オーディンは答えた。貧しい者が富む者の家に来たなら、賢く話すか、黙っているべきだ。
巨人の四つの問い
巨人は、床に立つ客に四つの問いを出した。
毎朝、人々のために昼を引いてくる馬の名は何か。――スキンファクシ。たてがみが明るく輝いている。
東から神々のために夜を引いてくる馬の名は何か。――フリームファクシ。毎朝そのくつわから泡が落ち、それが谷の露になる。
神々と巨人の国を分けて流れる川の名は何か。――イヴィング。いつも流れていて、決して凍らない。
スルトと神々が戦うことになる野の名は何か。――ヴィーグリーズ。四方に百マイルずつ広がっている。
客がすべて答えると、巨人は言った。客人よ、おまえは賢い。わたしの席へ来て、並んで語ろう。この館で、互いの首を知恵に賭けようではないか。
世界の始まりについて
こんどはオーディンが、一つめ、二つめ……と数えながら問い、巨人が答えた。
大地と天はどこから来たのか。――ユミルの肉から大地が、骨から山が、霜のように冷たい巨人の頭蓋から天が、血から海が作られた。
月と太陽はどこから来たのか。――ムンディルフェリが月と太陽の父で、二つは毎日天をめぐって人々に時を告げる。昼の父はデリング、夜はノルから生まれた。冬の父はヴィンドスヴァル、夏の父はスヴァースズである。
巨人の一族で最も古いのは誰か。――大地が作られるはるか前に、ベルゲルミルが生まれた。その父はスルーズゲルミル、祖父はアウルゲルミルである。アウルゲルミルは、エーリヴァーガルから滴った毒が育って巨人になったもので、巨人の一族はそこから起こった。女巨人を知らない彼がどうして子をもうけたのか。――氷の巨人の腕の下から男の子と女の子が育ち、足と足とから六つの頭をもつ息子ができたという。
あなたが覚えている最も古いことは何か。――大地ができる前に生まれたベルゲルミルが、昔、舟に乗せられたことである。
風と神々について
波の上を渡りながら、決して姿の見えない風はどこから来るのか。――天の果てに、鷲の姿をしたフレスヴェルグが座っている。その翼から風が起こり、人の世界を渡っていく。
神々から生まれたのではないニョルズは、どうして神々の一族に加わったのか。――ヴァン神族の国で賢い者たちが彼を作り、人質として神々に与えた。世界が終わるとき、彼はふたたび賢いヴァン神族のもとへ帰る。
オーディンの館で毎日戦いに出ていく者たちは誰か。――勇士たちである。彼らは毎日互いに倒し合い、戦いから戻ると、すぐに傷が癒えて席に着く。
巨人は言った。わたしは神々と巨人の一族のルーンについて、真実を語ることができる。わたしはあらゆる世界へ行った。九つの世界をめぐり、死者の住む下のニヴルヘルにまで行ったのだ。
滅びのあとの世界について
オーディンは、さらに先のことを尋ねた。
大いなる冬が人々に訪れたとき、人間のうち誰が生き残るのか。――リーヴとリーヴスラシルがホッドミーミルの森に隠れ、朝露を食べて生きのびる。
フェンリルが太陽を奪ったあと、太陽はどうして空に戻るのか。――奪われる前に、太陽は輝く娘を一人生む。神々が死んだあと、その娘が母の道をたどる。
海を渡ってくる、心賢い乙女たちは誰か。――モグスラシルの丘を越えて、三つの群れの乙女たちがやって来る。巨人の一族の出ではあるが、みな地上に住む者たちを守る。
スルトの火が消えたあと、神々の国を治めるのは誰か。――ヴィーザルとヴァーリが神々の住まいに住む。トールが戦いで倒れたあと、その息子モージとマグニがミョルニルを手にする。
神々が滅びるとき、オーディンには何が死をもたらすのか。――狼が人々の父を倒す。ヴィーザルがその仇を討ち、恐ろしい顎を引き裂いて狼を殺す。
最後の問い
最後に、オーディンは尋ねた。息子が火葬の薪の上で焼かれる前に、オーディン自身はその耳に何をささやいたのか。
巨人は答えた。昔あなたが息子の耳に何と言ったのかは、誰にも分からない。わたしは運命に定められた口で、神々の滅びと、わたしの古い話を語ってしまった。わたしはいま、オーディンと知恵を競ったのだ。そしてあなたのほうが、いつまでも賢い。
出典について:本稿は『古エッダ』の「ヴァフスルーズニルの言葉」に基づく再話です(英訳は H・A・ベロウズ訳、1923年)。詩はほとんどが問答の台詞で、地の文は5節の一つだけです。訳者ベロウズの注によれば、最後の問いはオーディン本人にしか答えられないため、巨人はここで客の正体に気づきます。また巨人は19節で自分の首を賭けているので、負けは死を意味するとされます。ただし詩は巨人の言葉で終わり、その後どうなったかは語りません。最後の問いの「息子」はバルドルを指すと訳注は説明しています。27節と40節には写本の欠落があり、40節の問いの文言は推定によるものです。トールやオーディンの最期は、『散文のエッダ』が語るラグナロク(神々の運命の時)の出来事にあたりますが、ここではこの詩の答えの範囲だけを述べました。
出典・資料
- 『古エッダ』Bellows訳・神々の歌と英雄詩 — 作品別の詩名・節を本文制作時に特定する
