NORSE · STORY
風の木に吊られたオーディン――ルーンと十八の歌
オーディンは風の吹く木に九夜吊り下がり、槍に傷つき、自分自身への捧げ物となって、叫びながらルーンを手にした。『古エッダ』の「高き者の言葉」で、神自身が語る知恵の獲得と、そのあとに数えあげられる十八の歌。
九夜の吊り下がり
この話は、オーディン自身の言葉として、詩のなかで語られる。
オーディンは言う。わたしは風の吹く木に吊り下がっていた。まる九夜のあいだ、そこに吊られていた。槍に傷つけられ、オーディンに――わたし自身が、わたし自身に――捧げられて。その木は、どんな根が下を走っているのか、誰も知ることのできない木である。
誰もパンをくれなかった。角杯で飲み物をくれる者もいなかった。わたしは下を見下ろした。そして叫び声をあげながらルーンを拾い上げ、そのまま落ちた。
言葉が言葉を呼ぶ
それから、わたしは栄えはじめ、知恵を得るようになった。わたしは育ち、健やかになった。一つの言葉が次の言葉へとわたしを導き、一つの行いが次の行いへと導いた。
詩はここで、オーディンが祖父ボルソルンの息子――ベストラの兄弟――から九つの力ある歌を学び、オズレリルから注がれたよい蜜酒を一口飲んだ、とも語る。
ルーンを書いた者たち
ルーンは、歌い手の王が色を塗り、力ある神々が作り、神々の支配者が刻んだ、強く力ある印である。詩は、神々のためにはオーディンが、エルフのためにはダーインが、小人のためにはドヴァリンが、巨人と人間のためにはアルスヴィズがルーンを書き、オーディン自身もいくつかを書いたと告げる。
続いて詩は問いかける。どう書くか、どう読むかを知っているか。どう色を塗り、どう試すかを知っているか。どう願い、どう捧げ、どう送り、どう犠牲を供えるかを知っているか。
大きすぎる捧げ物をするくらいなら、祈らないほうがよい。得たものに見合った贈り物をせよ。人の一族が生まれる前に、トゥンド――オーディンの別名――はそう書き記したという。
十八の歌
そのあとオーディンは、自分が知っている歌を一つずつ数えあげる。王の妃も、人の子らも知らない歌である。
一つめは「助け」と呼ばれ、悲しみや痛みや病のときに助けとなる。二つめは、病を癒やす技を使う者に必要なもの。三つめは、敵の刃をなまらせ、剣も杖も傷つけられなくする。四つめは、脚にかけられた縛めを解き、手の縛めも外す。五つめを知っていれば、仲間めがけて飛んでくる矢も、目にとらえさえすれば止められる。六つめは、若木の根を使って害をなそうとする者に、その害を返す。七つめは、仲間の頭上で燃える館の火を消す。
八つめは、勇士の息子たちのあいだに憎しみが生じたとき、すぐにそれを鎮める。九つめは、海で船を守らねばならないとき、波の上の風を静め、海を眠らせる。十めは、空を駆ける者たちを迷わせ、本来の姿をさらして家へ帰らせる。十一めは、長年の友を戦いへ率いるとき、盾の中で歌い、友を無事に戦場へ行かせ、無事に帰らせる。十二めは、木に吊られた死者を見たとき、ルーンを刻んで色を塗り、その者を起こして語らせる。
十三めは、若い戦士に水をそそいでおけば、軍勢のなかへ出ても倒れず、剣の下に沈まない。十四めは、人々に神々の名を告げる歌で、オーディンは神々とエルフのことをすべて知っている。十五めは、小人スヨーズレリルがデリングの戸口の前で歌ったもので、神々には力を、エルフには栄えを、オーディンには知恵をもたらした。十六めと十七めは、乙女の心を向けさせ、離れないようにするための歌である。
そして十八め。これは乙女にも人妻にも決して教えない。自分だけが知っていることこそ最上だからだ。ただ、腕に抱く人か、自分の姉妹だけは別だという。
出典について:本稿は『古エッダ』の「高き者の言葉」(ハーヴァマール)138〜165節に基づく再話です(英訳は H・A・ベロウズ訳、1923年)。詩は一人称で語られ、本稿ではその語りを地の文に移しました。訳者ベロウズは、139・140・142節をオーディンがルーンを得た話の断片とみなし、風の吹く木をとねりこユグドラシル(「オーディンの馬」の意)と説明しています。ただし詩の本文は木の名を挙げていません。141節(九つの歌と蜜酒)は蜜酒の話から紛れ込んだ節、143〜146節はさまざまな出所の断片と訳注は考えています。二つめと十七めの歌は、写本に欠けた行があり、内容が一部しか分かりません。歌を「十八」と数えるのは詩の数え方のとおりです。
出典・資料
- 『古エッダ』Bellows訳・神々の歌と英雄詩 — 作品別の詩名・節を本文制作時に特定する
