NORSE · STORY

シグニューの復讐とシンフィヨトリ

父ヴォルスング王と兄弟たちを夫シゲイルに殺されたシグニューは、ただ一人生き残った兄シグムンドを森にかくまい、復讐の時を待つ。そのために生まれた息子シンフィヨトリ、狼の皮の試練、塚からの脱出、燃える館。苛烈な復讐の物語。

ゴートランドの戦い

約束の日、ヴォルスング王と息子たちは、よく人を乗せた三隻の船でゴートランドへ向かった(物語「大木に刺さった剣とシグムンド」)。航海は順調で、夕方遅くに着いた。

その夜、シグニューがひそかに父と兄弟たちを呼び、シゲイル王が誰も立ち向かえない軍勢を集め、皆を欺こうとしていると告げた。国へ帰って、集められるかぎりの軍勢を連れて戻り、仇を討ってください、と。

ヴォルスング王は答えた。わたしはまだ生まれる前に、火からも剣からも逃げないと誓った。年老いたいま、それを破るわけにはいかない。息子たちが、死を恐れたと乙女たちに笑われることもあってはならない。人は一度は死なねばならないのだ。わたしは百の戦いをして、いつも勝ってきた。逃げたとも、和平を乞うたとも言われはしない。

シグニューは泣いて、シゲイル王のもとへ帰りたくないと願ったが、王は、どうなろうと夫のもとへ帰ってとどまれと言った。

翌朝、一行は武装して上陸し、シゲイルの全軍と激しく戦った。ヴォルスング王と息子たちは、その日、敵の軍勢を八度も突き抜けた。けれども九度目に、王は家来たちとともに倒れた。生き残った十人の息子は捕らえられ、縛られて連れていかれた。

森の足かせと牝狼

シグニューはシゲイル王に頼んだ。兄弟たちをすぐには殺さず、しばらく足かせにつないでおいてほしい、と。王は、そのほうが長く苦しむと言って聞き入れた。森の中で、十人の兄弟の足に大きな梁がはめられた。

その夜の真夜中、森から年老いた大きな牝狼が現れ、兄弟の一人を噛み殺して食べ、去っていった。九夜続けて牝狼はやって来て、毎晩一人ずつ兄弟を殺し、ついにシグムンドだけが残った。

十日目の夜が来る前に、シグニューは信頼する男をシグムンドのもとへ送り、その顔に蜜を塗らせ、口にも少し入れさせた。やって来た牝狼は蜜の匂いをかぎ、シグムンドの顔をなめまわし、舌を口の中へ差し入れた。シグムンドはその舌を歯でしっかりとくわえた。牝狼は激しく身を引き、足を梁に突っ張ったので、梁はまっぷたつに裂けた。それでもシグムンドが放さなかったので、舌が根もとから抜け、牝狼は死んだ。この牝狼は、魔術で姿を変えたシゲイル王の母だったと言う人もいる。

森の地下の家

自由になったシグムンドは森に住んだ。シグニューは兄と相談して森に地下の家をこしらえ、必要なものをひそかに送り届けた。シゲイル王は、ヴォルスング一族はみな死に絶えたと思っていた。

シグニューとシゲイルには二人の息子がいた。上の子が十歳になると、シグニューはその子を、父の仇討ちを助けさせようとシグムンドのもとへ送った。シグムンドは子にパンをこねておくよう言って粉袋を渡し、薪を取りに出た。戻ってみると何もしていない。粉の中に何か生きたものがいたので手を出せなかった、と子は言った。シグムンドはこの子に、仲間にしたいほどの勇気はないと考えた。それを聞いたシグニューは、そんな子なら殺してしまえと言い、シグムンドはそうした。次の冬に送られた下の子も、同じことになった。

シンフィヨトリの誕生

あるとき、シグニューのもとに、たいへん術にたけた魔女がやって来た。シグニューは魔女と互いの姿を取りかえた。魔女はシグニューの姿で王の寝床に入り、王は気づかなかった。

シグニューのほうは、森の地下の家を訪ね、森で道に迷ったので一夜泊めてほしいと兄に頼んだ。シグムンドは女ひとりを断りはしないと言って家に入れた。二人は食事をともにし、シグムンドはその美しい女から目を離せなかった。こうしてシグムンドは、三夜のあいだ、女を自分の寝床に迎えた。そのあとシグニューは家に戻り、魔女ともとの姿に戻った。

やがてシグニューは男の子を生み、シンフィヨトリと名づけた。大きく強く、顔立ちが美しく、ヴォルスング一族によく似ていた。

シグニューは前の息子たちを送る前に、手袋を皮と肉に縫いつけて試していた。二人はそれに耐えられず泣き叫んだ。十歳にならないシンフィヨトリに同じことをすると、少しも顔色を変えなかった。シグニューが上着ごと皮をはぎ取っても、ヴォルスングならこんな痛みは何とも思わないだろう、と言った。

シンフィヨトリは、シグムンドに言われるとおりパンをこねた。何か生きたものが粉の中にいたが、いっしょにこねてしまったと言う。シグムンドは笑って言った。今夜はそのパンを食べるな。いちばん恐ろしい蛇をこねこんでしまったのだから。シグムンドは毒を食べても平気だったが、シンフィヨトリは、体の外にかかる毒には耐えられても、食べることはできなかったのである。

狼の皮

シグムンドは、シンフィヨトリがまだ若すぎると考え、まず鍛えることにした。二人は夏のあいだ森をめぐり、人を襲って財を奪った。シグムンドは、この子をシゲイルの息子だと思っていた。ヴォルスングの力と大胆さをもちながら、父親の悪い心も受け継いでいるのだろうと。シンフィヨトリは、シゲイル王を討てと、たびたびシグムンドをけしかけた。

ある日、二人は森の家で、大きな金の腕輪をつけて眠る二人の男を見つけた。呪いをかけられた皮替わりの王子たちで、頭上には狼の皮がかかっていた。シグムンドとシンフィヨトリがその皮を着ると、脱げなくなってしまった。二人は狼のように吠えたが、互いにその意味が分かった。

二人は、七人までなら一人で戦い、それ以上なら狼の声で呼ぶと約束して、別々に森へ入った。シンフィヨトリは十一人の男に出会い、一人で全員を倒して疲れきり、樫の木の下で休んだ。やって来たシグムンドが、なぜ呼ばなかったのかと問うと、十一人を倒すのに助けを呼びたくなかったと答えた。シグムンドはかっとなって飛びかかり、シンフィヨトリの喉に噛みついた。

シグムンドはシンフィヨトリを背負って家へ運んだ。そのとき、二匹のイタチの一方がもう一方の喉を噛み、茂みから葉を取ってきて傷に当てると、噛まれたほうがすっかり治るのを見た。やがて一羽の鴉が同じ草の葉を運んできたので、シグムンドはそれで傷をなでた。シンフィヨトリは、傷などなかったかのように跳ね起きた。皮を脱げる日が来ると、二人は狼の皮を火で焼き、もう誰も害を受けないようにと祈った。

塚の中の剣

シンフィヨトリが一人前になると、二人はついに復讐に出かけた。夜遅くシゲイル王の館に着き、入口の酒樽のあいだに身を隠した。妃のシグニューは二人に気づき、その夜のうちにヴォルスング王の仇を討とうと示し合わせた。

館の床では、シグニューと王の幼い二人の子が、金の玩具を転がして遊んでいた。その輪が二人の隠れ場所へ転がっていき、追ってきた子が、兜をかぶり白い鎖帷子を着た大きな男たちを見つけて、父に知らせた。シグニューは子らを連れて二人のもとへ行き、この子らがあなたたちのことを告げてしまった、殺してしまえと言った。シグムンドは、隠れ場所を告げたくらいで妹の子を殺しはしないと断った。けれどもシンフィヨトリは剣を抜いて二人の子を殺し、王の足もとへ投げこんだ。

二人は大勢と勇敢に戦ったが、ついに捕らえられた。王は、最も長くむごい死を与えようと、石と芝で大きな塚を築かせ、その中を大きな平石で仕切って、二人を両側に入れた。声は聞こえても、互いのところへは行けないようにしたのである。

塚が芝でふさがれる前に、シグニューが藁を抱えて来て、シンフィヨトリのほうへ投げ入れた。中には豚の肉が包まれていて、その肉の中に、シグムンドのあの剣が押しこまれていた。シンフィヨトリは剣先を石に突き立てて強く引き、向こう側のシグムンドが剣先をつかんで、二人で石を挽き切った。こうして二人は塚から抜け出した。

燃える館

二人は皆が眠っている館へ行き、薪を積んで火を放った。煙と燃える屋根に目を覚ました王が、この火をつけたのは誰だと叫んだ。シグムンドは答えた。わたしだ。妹の息子シンフィヨトリもいる。ヴォルスング一族がまだ死に絶えていないことを思い知るがいい。

シグムンドは妹に、出てきて、あらゆるよいものと名誉と、苦しみの償いを受けよと呼びかけた。シグニューは答えた。

わたしがどれほどシゲイル王と、王がヴォルスング王を殺したことを忘れずにいたか、考えてみて。父の仇討ちに役立たないと思った二人の子を、わたしは殺させた。魔女の姿で森のあなたのところへ行った。シンフィヨトリは、あなたとわたしの子なのです。だからこそ、あれほど大胆で荒々しい。ヴォルスングの息子と娘の子なのだから。すべてはシゲイルを討つため。そしてわたしも、長く生きるつもりはなかった。嫁ぐときは少しも楽しくなかったけれど、いまは喜んでシゲイル王とともに死にます。

シグニューは兄とシンフィヨトリに口づけすると、火の中へ戻り、シゲイル王とその家来たちとともに死んだ。

シグムンドとシンフィヨトリは軍勢と船を集め、父の国へ帰って、ヴォルスング王の座を奪っていた王を追い払った。シグムンドは名高い王となり、ボルグヒルドを妻として、ヘルギとハームンドという二人の息子をもうけた。


出典について:本稿は『ヴォルスンガ・サガ』第5〜8章に基づく再話です(英訳はエイリークル・マグヌーソンとウィリアム・モリスの訳、H・H・スパーリング編、1888年)。子どもたちの殺害やシグニューとシグムンドの関係など、原典に語られる出来事を、筋が分かる範囲で簡潔に述べました。牝狼がシゲイル王の母だという話は、原典でも「ある人々はそう言う」という形で書かれています。サガの第8章の終わりと第9章は、シグムンドの息子ヘルギの戦いと結婚を語ります。同じヘルギは『古エッダ』の詩にもうたわれます(物語「ヘルギとシグルーン――戦いと婚姻」)。

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