NORSE · STORY

イズンと林檎――老いていく神々

鷲に捕らえられたロキは、放してもらう代わりに、林檎を守る女神イズンを神々の国の外へ誘い出すと誓う。イズンが連れ去られると、神々はたちまち老いはじめた。

煮えない肉

オーディンとロキとヘーニルの三人のアース神族が、家を出て、山や荒れ野をさまよっていた。食べ物はなかなか見つからなかった。

ある谷へ降りていくと、牛の群れが見えた。三人は一頭を取り、煮ることにした。

もう煮えたころだと思って火を崩してみると、肉は煮えていなかった。しばらく待って、もう一度火を崩しても、やはり煮えていない。三人は、これはどういうわけかと話し合った。

すると、頭上の樫の木から声がした。火の力を奪っているのは自分だ、という。見上げると、そこに鷲がとまっていた。小さな鷲ではなかった。

鷲は言った。この牛を腹いっぱい食べさせてくれるなら、火で煮えるようにしてやろう。三人は承知した。

鷲は木から舞い降りて火のそばにとまると、真っ先に、牛の両方の腿と両方の肩を取ってしまった。

棒に貼りついたロキ

ロキは腹を立て、大きな棒をつかむと、力いっぱい鷲の体に突き立てた。

鷲は激しく身をよじって飛び上がった。棒は鷲の背にくっついて離れず、ロキの両手も棒の反対の端にくっついてしまった。

鷲はとても高く飛んだので、下にぶらさがったロキの足は、石や岩の山や木々にぶつかった。腕は肩から引き抜かれそうだった。

ロキは大声で、どうか許してくれと鷲に頼みこんだ。だが鷲は、イズンをその林檎とともにアースガルズの外へ誘い出すと誓わないかぎり、決して放さないと言った。

ロキは承知した。すぐに放されると、ロキは仲間のもとへ戻った。三人が家に帰り着くまでの旅については、それ以上は語られていない。

森へ誘い出されたイズン

約束の時が来ると、ロキはイズンを、アースガルズの外のある森へ誘い出した。すばらしい林檎を見つけたので、あなたの林檎を持って来て比べてみてほしい、と頼んだのである。

そこへ、巨人スィアチが鷲の羽衣を着てやって来た。スィアチはイズンをつかむと、そのまま飛び去り、自分の住まいスリュムヘイムへ連れていった。

老いていく神々

イズンがいなくなると、アース神族は困り果てた。神々はたちまち白髪になり、老いていった。

神々は集まって相談し、イズンについて最後に知られていることは何かと、互いに尋ね合った。最後に見られたとき、イズンはロキと一緒にアースガルズを出ていくところだった。

ロキは捕らえられ、民会(シング)の場へ引き出されて、死か責め苦かと脅された。すっかりおびえたロキは、フレイヤが持っている鷹の羽衣を貸してくれるなら、巨人の国(ヨトゥンヘイム)へイズンを探しに行こう、と申し出た。

鷹と鷲

鷹の羽衣を手に入れると、ロキは北の巨人の国へ飛び、ある日、巨人スィアチの家に着いた。スィアチは海へ漕ぎ出していて、イズンが一人で家にいた。

ロキはイズンを木の実の姿に変え、爪でつかむと、全力で飛んだ。

家に帰ったスィアチは、イズンがいないことに気づくと、鷲の羽衣を着てロキを追った。その翼は、飛ぶたびにすさまじい音を立てた。

アース神族は、木の実をつかんで飛ぶ鷹と、そのあとを追う鷲を見た。神々はアースガルズの下へ出ていき、鉋くず(かんなくず)を背負って運んだ。

鷹は城の中へ飛びこみ、城壁のすぐそばへ舞い降りた。そのとき、アース神族は鉋くずに火をつけた。

鷹を見失った鷲は、止まることができなかった。鷲の羽に火が燃え移り、たちまち飛べなくなった。アース神族はすぐそばにいて、アース神族の門の内側で、巨人スィアチを殺した。この殺害は、たいへん名高いものだという。

このあと

父を殺されたスィアチの娘スカジは、武具をまとって、仇を討とうとアースガルズへやって来る。それはまた別の物語である。

読みどころ(編集部の解釈)

ロキは災いを招き、それを収める役目も負う。ただ、最初の誓いも、救出の申し出も、鷲に引きずられ、神々に脅されるなかでなされたものだった。ロキの機転だけでなく、巨人と神々の両方から追い詰められる立場が、この物語を動かしている。


出典について:本稿は『散文のエッダ』「詩語法」冒頭(A・G・ブロデュール訳〔1916年〕の第I節)に基づく再話です。英訳では巨人の名は Thjazi と綴られています。原典では、アースガルズの宴に招かれたエーギルに、隣の席のブラギがこの話を語ります。林檎の色や、イズンが戻ったあと神々が若さを取り戻す場面は、この箇所には書かれていないため加えていません。なお「ギュルヴィたぶらかし」第26章は、神々は老いるとイズンの林檎を味わって若返る、と説明しています。

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出典・資料