NORSE · STORY

アース神族とヴァン神族――最初の戦いと和平

世界で最初の戦いは、二つの神の一族のあいだで起こった。焼かれても生き返る女、破られた神々の壁、人質の交換、そして和平のしるしの甕。資料ごとに少しずつ残された戦いと和解の物語を読む。

二つの神の一族

北欧神話の神々には、オーディンやトールが属するアース神族のほかに、ヴァン神族と呼ばれる一族がいる。風と海を治めるニョルズは、もとはヴァン神族の国で育った神である。

二つの一族は、あるとき争い、のちに和解した。けれども、その戦いと和平のいきさつを一続きに語った資料は残っていない。ここでは、三つの資料がそれぞれに伝える場面を、順に見ていく。

巫女が覚えている最初の戦い

『古エッダ』の「巫女の予言」で、世界の初めから終わりまでを語る巫女は、こう言う。

わたしは、世界で最初の戦いを覚えている。神々がゴッルヴェイグを槍で打ち、ハール――オーディン――の館で焼いたときのことを。三度焼かれ、三度生まれ、何度でも繰り返し、それでも彼女はいまも生きている。

神々の家を訪ねてきたその女は、ヘイズと呼ばれた。遠くまで見通す魔女で、魔術に長け、その術で人々の心を惑わしたという。

やがてオーディンが軍勢に向けて槍を投げた。こうして世界に初めて戦が起こった。神々を囲む壁は破られ、戦いを好むヴァン神族が野を踏みしだいた。

神々は会議の座に集まり、話し合った。神々が貢ぎ物を払うべきか、それとも、すべての神が等しく崇められるべきか――。

詩は、このあと別の話へ移り、和平がどのように結ばれたかは語らない。

人質の交換

和解の一つの形を伝えるのは、『散文のエッダ』の「ギュルヴィたぶらかし」である。

ニョルズはアース神族の生まれではない。ヴァン神族の国で育った神だった。ヴァン神族はニョルズを人質として神々に渡し、そのかわりにヘーニルと呼ばれる者を人質として受け取った。こうしてニョルズは、神々とヴァン神族のあいだの和解のしるしとなった。

ニョルズは天のノーアトゥーンに住み、風の行方を治め、海と火を鎮める。のちにノーアトゥーンで、息子フレイと娘フレイヤが生まれた。

「ヴァフスルーズニルの言葉」という別の詩も、ニョルズについて同じように語っている。ヴァン神族の国で賢い者たちが彼を作り、人質として神々に与えた。そして世界が滅びるとき、彼はふたたびヴァン神族のもとへ帰るのだという。

和平のしるしの甕

もう一つの和平の形は、同じ『散文のエッダ』の「詩語法」が、詩の起こりを説明するなかで語っている。

神々はヴァン神族と争ったあと、和平の会合を開いた。そして双方がそれぞれ一つの甕に歩み寄り、そこへ唾を吐き入れて、和平を結んだ。

別れのとき、神々はこの和平のしるしを失わせまいとして、そこから一人の人を作った。その名をクヴァシルという。どんな問いにも答えられないことのない、たいへん賢い者だった。クヴァシルのその後の運命は、物語「詩の蜜酒――クヴァシルの血とオーディンの獲物」で語られる。


出典について:本稿は、『古エッダ』の「巫女の予言」21〜24節と「ヴァフスルーズニルの言葉」39節(英訳は H・A・ベロウズ訳、1923年)、『散文のエッダ』の「ギュルヴィたぶらかし」第23〜24章と「詩語法」の詩の起こりの段(英訳は A・G・ブロデュール訳、1916年)に基づきます。三つの資料はそれぞれ戦いと和平の一部分だけを伝え、互いの関係は原典に説明されていません。本稿はそれぞれの話を分けて示し、一つの筋としてはつなげていません。「巫女の予言」の23節と24節は、ベロウズ訳が写本の順序を入れ替えたものに従いました。ゴッルヴェイグとヘイズが同じ人物か、ゴッルヴェイグが何者かは、詩には明示されていません。

この物語の関連事典

神話事典神々・英雄・怪物・武器・道具・場所を横断して探す。

出典・資料