NORSE · STORY
トールとヒュミルの大釜
神々の宴の酒を醸すため、トールはテュールとともに巨人ヒュミルの大釜を求めて旅立つ。牡牛を平らげ、大蛇を釣り上げ、硬い杯を割り、ついに一マイルの深さの釜を頭にかついで帰る『古エッダ』の物語。
宴のための釜
昔、神々は宴を開こうとして、飲み物を求めた。小枝を振り、血で占いをしたところ、海の巨人エーギルの館に豊かなもてなしがあると分かった。
トールはエーギルの目をにらみつけ、神々のために宴を用意せよと命じた。エーギルは、どうにか神々に仕返しをしてやろうと考えた。そこでトールに言った。皆のためにたっぷり酒を醸してやろう。そのための大釜を持ってこい。
ところが、名高い神々にも、そんな釜はどこにも見つからなかった。
するとテュールが、トールに確かな助言をした。エーリヴァーガルの東、天の果てに、賢いヒュミルが住んでいる。わたしの荒々しい父は、深さが一マイルもある大きな釜を持っている。
あの釜を手に入れられるだろうか、とトールが尋ねた。知恵を使えばできる、とテュールは答えた。
巨人の館
二人はその日のうちに急いで旅立ち、アースガルズからエギルという者の家に着いた。そこに角で飾られた山羊を預けると、ヒュミルの館へ向かった。
館には、テュールのひどく嫌う祖母がいた。頭が九百もある女だった。けれども、もう一人の女――金で身を飾った、額の明るい美しい女――が現れ、息子にビールを運んできた。女は言った。わたしの夫は、客にはよく腹を立てて荒々しくなる。だから二人とも、この大釜の下に隠れていなさい。
夜遅く、醜い巨人ヒュミルが狩りから帰ってきた。あごひげが凍りつき、入ってくるとつららがからからと鳴った。
女は言った。おかえりなさい、ヒュミル。息子が館に来ています。長い道のりを旅して来たのです。人間の友、ヴェーウルと呼ばれる者もいっしょです。ほら、あの切妻の下、梁の陰に隠れています。
巨人がそちらをにらむと、そのまなざしだけで梁が折れ、太い柱が砕けた。棚から八つの釜が落ちて割れ、無事だったのは、鍛え抜かれた一つの釜だけだった。
二人が床へ出てくると、巨人は敵の姿をにらみつけた。女巨人たちの敵が床に出てきたのを見て、ヒュミルの心は悲しみを覚えた。それでも、牡牛を三頭連れてこさせ、煮るように命じた。三頭とも首を落とされ、火にかけられた。トールは眠る前に、ヒュミルの牡牛のうち二頭を一人で平らげてしまった。
大蛇を釣る
年老いた巨人には、トールの食事がずいぶん多すぎるように思えた。明日の晩は、三人で狩りの獲物を食べなければなるまい、とヒュミルは言った。
トールは、海へ漕ぎ出したいので、餌をもらえないかと言った。ヒュミルは答えた。巨人殺しよ、餌がほしいなら牛の群れへ行け。そこなら簡単に手に入るだろう。
トールは森へ急ぎ、真っ黒な牡牛を見つけた。そしてその牛から、二本の角のそびえる頭をもぎ取った。
海に出ると、トールはもっと沖へ舟を進めよと言った。巨人は、もうこれ以上漕ぐ気はないと言った。
ヒュミルは、ひと投げで鯨を二頭も釣り上げた。艫にはトールが座り、念入りに支度をしていた。トールは牡牛の頭を針につけた。すると、大地を取り巻く神々の敵――大蛇ヨルムンガンド――が餌に食いついた。
トールは毒の大蛇を、舟べりまで一気に引き上げた。そして、フェンリルの兄弟であるその大蛇の頭を、槌で上から打った。
怪物が吠え、岩々がとどろき、古い大地がすっかり揺れた。そして大蛇は、たちまち海に沈んでいった。
割れない杯
帰り道、ヒュミルは楽しまず、黙りこんで櫂を漕いでいた。
岸に着くと、ヒュミルは言った。仕事を半分受け持ってくれ。舟をつないでおくか、それとも鯨を家まで運ぶか。
トールは舟の舳先をつかみ、水をたたえたまま舟を持ち上げた。櫂も汲み出しの桶も、鯨もろとも、巨人の館まで担いでいった。
それでも頑固な巨人は、まだトールと力を比べようとした。どれほど強く漕げる者でも、この杯を割れる者でなければ、本当に強いとは認めない、と言うのである。
トールは杯を手に取ると、石の柱に投げつけた。柱は粉々に砕けたが、杯は無傷のままヒュミルのもとへ戻された。
そのとき、巨人の愛する美しい女が、確かな知恵を授けた。食べ飽きたヒュミルの頭蓋を打ちなさい。あれはどんな杯よりも硬いのです。
トールは片膝を立てて身を起こし、神の力のすべてを込めて杯を打ちつけた。巨人の頭は無事だったが、丸い杯は砕け散った。
ヒュミルは言った。すばらしい宝がわたしの手から失われた。もう二度と、「わが酒よ、醸されよ」と言うことはできない。
釜をかついで
ヒュミルは言った。この館から釜を運び出せるなら、それで十分だ。
テュールが二度、釜を動かそうとしたが、二度とも釜はびくともしなかった。そこでトールが縁をしっかりつかみ、床を踏み抜いて立つと、釜を頭の上へ持ち上げた。歩くたびに、釜の取っ手がかかとに当たってがらがらと鳴った。
しばらく行ってから、トールは振り返った。すると東の洞窟から、ヒュミルとともに、たくさんの頭をもつ巨人たちの群れが追ってくるのが見えた。
トールは背中から釜を下ろすと、ミョルニルを振るい、荒野の巨人たちをことごとく打ち倒した。
それから間もなく、トールの山羊の一頭が足をいため、半ば死んだように倒れていた。悪しきロキのしわざだった。その償いとしてトールが荒野の住人から何を得たか――その者は自分の子を二人とも差し出した――は、神々の話を知る者なら誰でも聞いているだろう、と詩は語る。
こうしてトールは神々の集まりに戻り、ヒュミルの釜を持ち帰った。神々は秋の宴に、エーギルの館で心ゆくまで酒を飲むことができた。
出典について:本稿は『古エッダ』の「ヒュミルの歌」に基づく再話です(英訳は H・A・ベロウズ訳、1923年)。トールが大蛇を釣る場面は、『散文のエッダ』「ギュルヴィたぶらかし」第48章にもあり(物語「トールとヨルムンガンドの釣り対決」)、同行者や結末が異なります。この詩では大蛇は槌で打たれて海に沈みますが、写本の欠落のため、大蛇が死んだかどうかは読み取れません。テュールがヒュミルを父と呼ぶ理由は分かっていません。金で飾った女はヒュミルの妻でテュールの母、山羊の足をいためた話はスノッリの伝える農夫の家の出来事(物語「トールのウトガルザ・ロキ訪問――勝てなかった技比べ」)にあたると訳注は説明していますが、スノッリはロキのせいだとは書いていません。
出典・資料
- 『古エッダ』Bellows訳・神々の歌と英雄詩 — 作品別の詩名・節を本文制作時に特定する
