NORSE · STORY
トールとヨルムンガンドの釣り対決
若者の姿で巨人ヒュミルの家に泊まったトールは、牛の頭を餌に沖へ漕ぎ出す。釣り上げたのは、世界を取り巻くミズガルズの大蛇だった。
若者の姿で
ウトガルズの城から戻ったトールは、家に長くとどまらなかった。その旅の埋め合わせをしようと、急いで支度をして出かけた。今度は、車も、山羊も、供の者も連れていなかった。
トールは若者の姿になってミズガルズ(人間の住む世界)を越え、ある夕暮れ、ヒュミルという巨人の家に着いて、一夜の宿を借りた。
夜明けになると、ヒュミルは起きて身支度をし、海へ漁に漕ぎ出す用意を始めた。トールもすぐに飛び起き、一緒に漕ぎ出させてほしいと頼んだ。
ヒュミルは言った。おまえのように小さく若い者では、たいして役に立たない。それに、わしがいつものように遠く、長く沖にいれば、おまえは凍えてしまうだろう。
トールは答えた。陸から遠くまで漕いでいくことぐらいはできる。それに、先に帰ろうと言い出すのがどちらになるかは、まだわからない。
トールは巨人にひどく腹を立て、すぐにも槌ミョルニルを打ち下ろしそうになった。だが、別のところで力を試すつもりだったので、思いとどまった。
牛の頭の餌
餌は何にするのかと尋ねると、ヒュミルは、自分で用意しろと言った。
トールは、ヒュミルが飼っている牛の群れのところへ行き、いちばん大きな牛――ヒミンフリョートという名の牛――の頭を切り取って、海辺へ持っていった。そのころには、ヒュミルはもう舟を海へ押し出していた。
漁場の先へ
トールは舟に乗り込んで艫(とも)に座り、二本の櫂で漕いだ。ヒュミルは舳先で漕いだ。舟は飛ぶように進んだ。
やがてヒュミルは、いつも錨を下ろしてカレイを釣る漁場に着いた、と言った。だがトールは、もっとずっと遠くまで漕ぎたいと言い、二人はさらに力を込めて漕いだ。
するとヒュミルは、ここまで来ると、これより沖にいるのはミズガルズの大蛇がいて危ない、と言った。トールは、もうしばらく漕ごうと答えて、そのとおりにした。ヒュミルはひどく恐れていた。
トールは櫂を置くと、とても丈夫な釣り糸と、それに劣らず大きく強い針を用意した。針に牛の頭を付けて舟べりから投げ込むと、針は海の底まで沈んでいった。
舟べりの大蛇
ミズガルズの大蛇――ロキの子ヨルムンガンド――が牛の頭に食いつき、針があごに掛かった。
針に掛かったと知ると、大蛇は激しく逃げようとした。その勢いで、糸を握るトールの両方の拳が、舟べりに打ちつけられた。
トールは怒り、神の力を身に帯びた。足を強く踏ん張ったので、両足は舟の底を突き抜け、海の底を踏みしめた。そうしてトールは、大蛇を舟べりまで引き上げた。
トールは火のような眼差しで大蛇をにらみつけ、大蛇は下からトールをにらみ返して毒を吹いた。この光景を見なかった者は、本当に恐ろしいものを見たことがない、と語られるほどの場面である。
巨人ヒュミルは、大蛇の姿と、海水が舟の中へ流れ込んでは出ていくのを見て、青ざめ、黄色くなり、ひどく恐れた。
切られた糸
トールが槌をつかんで高く振り上げた、まさにそのとき、巨人は魚をさばく小刀を探り当て、舟べりでトールの糸を断ち切った。大蛇は海の中へ沈んでいった。
トールは、そのあとを追って槌を投げつけた。
それからトールは拳を振るい、ヒュミルの耳を打った。ヒュミルは舟から海へ真っ逆さまに落ち、トールにはその足の裏が見えた。そしてトールは、海の中を歩いて陸へ戻った。
読みどころ(編集部の解釈)
トールは危険を承知で沖へ進み、ヒュミルは危険を目の当たりにして糸を切る。同じ舟に乗りながら、二人が求めていたものは違った。その違いが、大蛇と向かい合った一瞬に表れている。
出典について:本稿は『散文のエッダ』「ギュルヴィたぶらかし」第48章に基づく再話です。参照した英訳は A・G・ブロデュール訳(1916年)です。原典では、ガングレリと名のる者が「トールはウトガルザ・ロキに仕返しをしたのか」と問い、語り手ハールがこの話を語ります。ハールは、トールが大蛇を欺いたのは、ウトガルザ・ロキがトールを欺いたのに劣らない、と評しています。大蛇の結末について、ハールは「槌が海の底で大蛇の頭を打ち落とした、と言う人々もいる」と伝えたうえで、「大蛇はいまも生きて、陸地を取り巻く海に横たわっている、というのが本当だと思う」と述べています。本文はこの二つの説のどちらにも決めず、槌を投げたところまでを出来事として語りました。トールとヒュミルの話は『古エッダ』の詩「ヒュミルの歌」にもありますが、別の資料のため本稿には含めていません。大蛇の名ヨルムンガンドとロキの子であることは、同書第34章によります。
出典・資料
- スノッリ・ストゥルルソン『散文のエッダ』「ギュルヴィたぶらかし」 — 作品全体。記事ごとの章節は制作記録で特定する
