NORSE · STORY

トールの槌が盗まれた日

雷神トールの槌ミョルニルが消えた。返還の条件は女神フレイヤとの結婚。神々が考えた奇策とは。

消えた槌

雷神トールが目を覚ますと、いつも手元にあるはずの槌がなかった。

その槌の名は**ミョルニル**。トールの大切な武器である。

トールはひげを震わせ、髪を逆立てて探したが、見つからない。そこで神々の仲間ロキを呼び、まだ誰も知らない一大事を打ち明けた。槌が盗まれたのだ。

巨人が出した条件

二人は女神フレイヤの館へ行き、空を飛べる羽の衣を借りた。ロキはそれを身につけ、神々の住まいを離れて巨人たちの国へ飛んでいった。

そこにいたのは、巨人たちの長スリュムだった。

スリュムは、槌を隠したのは自分だと認めた。地下深くに埋めてあり、フレイヤを花嫁として連れて来なければ返さないという。

ロキはこの知らせを持ち帰った。トールとロキはフレイヤのもとへ行き、花嫁のベールをかぶって巨人の国へ一緒に来てほしいと頼んだ。

フレイヤは激しく怒った。神々の館が揺れ、首にかけていた首飾りがはじけ飛ぶほどだった。

トールを花嫁に

神々は集まって相談した。

そこで神ヘイムダルが、思いもよらない案を出した。

トール自身を花嫁に変装させるのである。

花嫁のベールをかぶせ、フレイヤの首飾りをつけさせ、腰には鍵の束を下げさせる。

トールは、そんな格好をしたら神々に女々しいと言われる、と反対した。だがロキは、槌を取り戻さなければ、やがて巨人たちが神々の国アースガルズに住みつくことになると言い聞かせた。そして自分も侍女に扮して付き添うと申し出た。

こうしてトールは花嫁の姿になり、ロキとともに巨人の国へ向かった。

食べすぎる花嫁

スリュムは、花嫁がやって来たと大喜びで宴を開いた。

ところが、花嫁はとんでもない食欲を見せた。雄牛を一頭、鮭を八匹、女性たちのためのごちそうまで平らげ、蜜酒も三樽(たる)飲み干した。

スリュムが驚くと、侍女に扮したロキがすかさず答えた。

「花嫁は巨人の国へ来るのが待ちきれず、八晩も何も食べていなかったのです」

納得したスリュムは、花嫁に口づけしようとベールの下をのぞいた。ところが、その目は火が燃えているように恐ろしく、思わず飛びのいた。

ロキはまた言い訳をした。

「花嫁は巨人の国へ来るのが待ちきれず、八晩も眠っていなかったのです」

戻ってきたミョルニル

ついにスリュムは、花嫁を清めるため、槌ミョルニルを持って来て花嫁の膝に置くよう命じた。

槌が膝の上に置かれた瞬間、トールの心は笑った。トールは槌をつかんでまずスリュムを打ち倒し、続いてその場の巨人たちを倒し、婚礼の贈り物を求めていたスリュムの姉妹も槌で打ち倒した。

こうして、トールは槌を取り戻した。

この物語の読みどころ

力自慢のトールが花嫁に変装し、侍女に扮したロキが次々と言い訳を重ねる。北欧神話には、世界の始まりや終わりを語る壮大な物語だけでなく、こうした笑いを含んだ話もある。

この物語は『古エッダ』の詩「スリュムの歌」に伝わる。上の文章は詩の筋に沿って現代日本語で再話したもので、会話を逐語的に訳したものではなく、一部の場面は省略している。英訳と古ノルド語の対照資料を用いて主要場面を照合しましたが、主要な記述の出典照合を完了しています。

出典・資料

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