NORSE · STORY
トールと渡し守ハールバルズの言い争い
東の旅から帰るトールは、海峡の向こう岸の渡し守に舟を出せと呼びかける。ハールバルズと名のる渡し守は渡しを拒み、二人は互いの手柄と恥をぶつけ合う。最後までトールは向こう岸へ渡れない。
海峡の向こう岸
トールが東の国への旅から帰る途中、ある海峡に行きあたった。向こう岸には、舟を持った渡し守がいた。トールは呼びかけた。
向こう岸のあいつは誰だ。
渡し守は言い返した。入り江の向こうから呼んでいる、あの百姓は何者だ。
トールは言った。海峡を渡してくれ。そうすれば、明日の朝、食べ物を分けてやろう。背中の籠には、これ以上ないほどの食べ物が入っている。家を出る前に、鰊と粥をゆっくり腹いっぱい食べてきたのだ。
渡し守は言った。朝の手柄が自慢らしいが、先のことはよく分かっていないな。おまえの帰る家は悲しいぞ。おまえの母は死んだようだから。
トールは言った。いまおまえが言ったのは、誰にとってもいちばん重い悲しみだ。母が死んだとは。
渡し守はさらに言った。よい家を三軒も持っているようには見えない。裸足で立って、物乞いの服を着ている。脚衣さえはいていないではないか。
名のり合い
トールは言った。舟をこちらへ寄せろ。着ける場所は教えてやる。それにしても、岸につないでいるその舟は誰のものだ。
渡し守は答えた。ヒルドルヴという賢い勇士が、わたしに舟を預けた。ラズセイの海峡に住んでいる人だ。盗人や馬泥棒は渡すな、よい人と、よく知っている人だけを渡せと言われている。海峡を渡りたいなら、名を言え。
トールは言った。危ない目にあっていようと、名前と一族を言おう。わたしはオーディンの息子、メイリの兄弟、マグニの父、神々のなかの強き者だ。いまおまえが話している相手はトールだ。さあ、おまえの名を聞こう。
渡し守は言った。わたしはハールバルズ。名を隠すことはめったにない。
手柄と恥のぶつけ合い
トールは言った。そっちへ行くのはひと苦労だ。水を歩いて渡り、腰まで濡れることになる。だが渡ったら、その嘲りの報いをしてやるぞ、弱虫め。
ハールバルズは言った。ここで待っていてやる。フルングニルが死んでから、わたしより手ごわい相手には会っていないはずだ。
こうして二人は、互いに自分のしてきたことを語り合った。
トールは、石の頭をもつ傲慢な巨人フルングニルを倒した話をした。巨人スィアチを倒し、その目を天へ投げ上げて、誰にでも見える印にしたことも語った。東へ行って、山へ向かう巨人の悪い女たちを倒したこと、川を守ってスヴァラングの息子たちと戦い、相手に和平を乞わせたこと、フレーセイの島で狂戦士の妻たちを倒したことも語った。そしてそのたびに、こう尋ねた。ハールバルズよ、そのあいだ、おまえは何をしていた。
ハールバルズは答えた。フィョルヴァルとともに五冬のあいだ島に住み、戦い、敵を倒し、女たちをものにした。夜を駆ける女たちを夫からこっそり奪った。巨人フレーバルズから杖を贈られ、その代わりに巨人の知恵を奪った。ヴァルランドで戦を起こし、王たちを怒らせ、決して和平をもたらさなかった。戦で倒れる貴人はオーディンのもの、奴隷の一族はトールのものだ――。そして、こう尋ね返した。トールよ、そのあいだ、おまえは何をしていた。
ハールバルズは、トールの恥もつついた。トールには力は十分あるが、勇気はない。恐ろしさのあまり手袋の中にもぐりこみ、自分がトールだということも忘れていたではないか、と。
和解の腕輪と脅し
やがてハールバルズは、腕輪を一つ渡すから、仲裁人の決めるとおりに和解しようと言いだした。トールは言った。そんな汚い、人を馬鹿にした言葉をどこで覚えた。こんなひどい言葉は聞いたことがない。
ハールバルズは、故郷の丘に住む昔の人々から学んだのだと答えた。トールは、石の塚をうまく「故郷の丘」と呼ぶものだ、と言い返した。
トールは脅した。その鋭い舌は身のためにならないぞ。わたしが水を渡る気になって、槌の一撃を食らえば、おまえは狼より大きな声で泣きわめくだろう。
ハールバルズは言った。シヴには家に愛人がいる。そっちへ行って力をふるったほうがいい。
トールは言った。おまえの舌は、わたしがいちばん嫌なことばかり言わせる。愚か者め、うそをついているな。
ハールバルズは言った。本当のことを言っているまでだ。それにしても、ぐずぐずしているな。舟に乗っていたなら、もうずっと遠くまで行けていただろうに。
渡れない海峡
トールは言った。もう十分だ。舟をこちらへ漕いでこい。嘲るのはやめて、マグニの父を向こうへ渡せ。
ハールバルズは言った。海峡から立ち去れ。おまえには渡しはない。
トールは言った。それなら、渡してくれないのなら、道を教えろ。
ハールバルズは言った。断るのはたやすいが、行く道は遠い。しばらくは切り株へ、しばらくは石へ。それから左の道を行って、ヴェルランドに着け。そこで母のフィョルギュンが息子トールを見つけ、オーディンの国へ通じる一族の道を教えてくれるだろう。
トールは尋ねた。一日でそこまで行けるだろうか。
ハールバルズは言った。苦労しながらなら、日のあるうちに着けるかもしれないな。
トールは言った。話はもう短くしよう。おまえは嘲ってばかりだ。渡してくれなかった報いは、いつか会ったときに払ってやる。
ハールバルズは言った。あらゆる悪いものにさらわれるところへ、さっさと行くがいい。
出典について:本稿は『古エッダ』の「ハールバルズの歌」に基づく再話です(英訳は H・A・ベロウズ訳、1923年)。冒頭の状況は写本の散文が伝え、詩はすべて二人の台詞です。英訳者ベロウズは、ハールバルズ(「灰色のひげ」の意)をオーディンとみなしていますが、詩の本文はそれを明言していません。二人が語る手柄の多くはこの詩にしか出てこず、互いの非難は言い合いの中の言葉として読むべきものです。トールが手袋の中に隠れたという話は、物語「トールのウトガルザ・ロキ訪問――勝てなかった技比べ」の出来事を指すと考えられます。
出典・資料
- 『古エッダ』Bellows訳・神々の歌と英雄詩 — 作品別の詩名・節を本文制作時に特定する
