ENCYCLOPEDIA · 北欧神話
フルングニル
Hrungnir
石の頭と三つの角をもつ石の心臓をもつ巨人。オーディンとの馬比べからアースガルズで大言を吐き、トールとの一騎打ちで槌に頭を砕かれた。
馬比べと大言
『散文のエッダ』「詩語法」によれば、トールが東へ出ていたあいだに、オーディンはスレイプニルに乗って巨人の国のフルングニルを訪ねた。フルングニルが、自分の馬グルファクシ(「金のたてがみ」)のほうが足が速いと言うと、オーディンは巨人の国にこれほどの馬はいないと自分の首を賭け、駆け出した。怒って追ったフルングニルは、気づいたときにはアースガルズの門の内にいた。
神々はフルングニルに酒を勧め、トールのいつもの大杯を出した。酔ったフルングニルは、ヴァルハラを巨人の国へ運び、アースガルズを沈めて神々をみな殺し、フレイヤとシヴだけを連れて帰る、と大言した。神々のなかで彼に酒を注ぐ勇気があったのはフレイヤだけだった。
トールとの一騎打ち
大言にうんざりした神々がトールの名を呼ぶと、トールが館に入ってきて槌を振り上げ、誰が巨人に酒を飲ませたのかと怒った。フルングニルは、自分はオーディンに招かれて安全を保証されている、武器のない者を殺しても名誉にはならない、と言い、国境のグリョートゥーナガルズで戦おうと挑んだ。
フルングニルの心臓は硬い石でできていて、三つの角があり、のちに「フルングニルの心臓」と呼ばれる文字の形をしていた。頭も石で、盾も石、武器は砥石だった。巨人たちは、高さ九マイル、脇の下の幅三マイルの粘土の男モックルカールヴィを作って、そばに立たせた。
トールの従者シャールヴィが、トールは地の下から来ると告げたので、フルングニルは盾を足の下に敷き、両手で砥石を構えた。稲妻と雷鳴のなかでトールが槌を投げ、フルングニルも砥石を投げた。槌は砥石を砕いてフルングニルの頭を粉々にしたが、砥石のかけらの一つはトールの頭に刺さった。倒れたフルングニルの足はトールの首の上に乗り、それを払いのけたのは、トールと女巨人ヤールンサクサの子で、生まれて三夜のマグニだった。トールは息子に馬グルファクシを与えた。
頭に残った砥石を抜くため、賢女グローアが呪文を唱えたが、トールが彼女の夫アウルヴァンディルの話をして喜ばせると、グローアは呪文を忘れ、砥石はトールの頭に刺さったままになったという。
詩に残る名
『古エッダ』でも、この戦いはトールの手柄として繰り返し語られる。「ハールバルズの歌」では、トールが石の頭の傲慢な巨人フルングニルを倒したことを誇り、「ロキの口論」では、トールがフルングニルを倒した槌でロキを脅す。
登場する物語
- ロキの口論――エーギルの宴の騒動海の巨人エーギルの館の宴に、追い出されたロキが戻ってくる。席を求めたロキは、神々と女神たちに次々と悪口を浴びせ、最後に現れたトールの槌の脅しの前で、ようやく館を去る。『古エッダ』の「ロキの口論」。
- トールと渡し守ハールバルズの言い争い東の旅から帰るトールは、海峡の向こう岸の渡し守に舟を出せと呼びかける。ハールバルズと名のる渡し守は渡しを拒み、二人は互いの手柄と恥をぶつけ合う。最後までトールは向こう岸へ渡れない。
- トールとフルングニルの決闘――頭に残った砥石馬比べからアースガルズへ入りこみ、酔って大言を吐いた巨人フルングニル。トールは初めての一騎打ちに臨み、槌で巨人を倒すが、砕けた砥石のかけらは今もトールの頭に刺さったままだという。
関連する事典項目
出典
- スノッリ・ストゥルルソン『散文のエッダ』「詩語法」
- 原題
- Skáldskaparmál
- 該当箇所
- 作品全体。章番号はBrodeur訳に従い、他版の番号と混同しない
- 参照訳
- Arthur Gilchrist Brodeur, The Prose Edda (1916)
2026-10-28、収録計画のため一部本文を確認。グングニルと神器の製作はこの版の第35章。フロールヴ・クラキは第43章。個別記事の照合は別に記録する。
- 『古エッダ』Bellows訳・神々の歌と英雄詩
- 原題
- The Poetic Edda
- 該当箇所
- 作品別の詩名・節を本文制作時に特定する
- 参照訳
- Henry Adams Bellows, The Poetic Edda (1923)
2026-10-28、収録目次を確認。詩ごとの本文確認は未実施。既存の採用詩の章別レコードは維持する。
