NORSE · STORY
ヘルギとシグルーン――死者との再会
オーディンの槍を授かった義兄弟ダグに討たれたヘルギ。シグルーンは兄を呪い、夫の塚のそばで嘆く。ある夕方、塚が開いて、死んだヘルギが仲間とともに馬で戻ってくる。冷たい夫を抱いて一夜を過ごしたシグルーンに、夜明けは別れを告げた。
オーディンの槍
ヘルギはシグルーンを妻にし、二人のあいだには息子たちが生まれた(物語「ヘルギとシグルーン――戦いと婚姻」)。けれどもヘルギは、年をとるまで生きることはなかった。
ホグニの息子ダグは、父の死の仇を討たせてくれるよう、オーディンに犠牲を捧げた。オーディンはダグに自分の槍を与えた。ダグは、フィョトゥルルンドという所で義兄弟のヘルギを見つけ、その槍でヘルギの体を刺し通した。ヘルギは倒れた。
ダグはセヴァフィョッルへ馬を走らせ、シグルーンに告げた。
妹よ、悲しい知らせを伝えねばならない。わたしは心ならずも、わたしたちの一族に災いをもたらしてしまった。この朝、フィョトゥルルンドで、世界で最も気高い王が倒れたのだ。
シグルーンの呪い
シグルーンは言った。
レイプトの輝く水と、ウズの氷のように冷たい石にかけて、あなたがヘルギと立てたすべての誓いが、あなたを噛むがいい。
あなたが乗る船は、順風が吹いても進まない。あなたが乗る馬は、どれほど敵から逃げたくても走らない。あなたが持つ剣は、あなた自身の頭のまわりで歌うまで、何も切らない。
ヘルギを殺された仇を、わたしは討ってやりたい。あなたが森の中の狼となって、何ももたず、何の喜びも知らず、屍のほかに食べるものがなくなればいい。
ダグは言った。妹よ、気でも狂ったのか。兄にそんな呪いをかけるとは。あらゆる災いを支配するのはオーディンだ。悪意のルーンで親族を引き裂くのは、オーディンなのだ。おまえの兄は、赤く輝く腕輪を与えよう。わたしの土地の半分を、償いとして、おまえとおまえの息子たちにやろう。
シグルーンは言った。わたしはもうセヴァフィョッルで、朝も夕べも、幸せに座っていることはない。金のくつわの馬ヴィーグブレールに乗った王が、仲間とともに帰ってくるのを、光の中に見ることがなければ。ヘルギの敵たちは、狼を前にした山羊が岩のあいだを狂ったように逃げるように、いつもヘルギを恐れていた。ヘルギは勇士たちの上にそびえていた。低いいばらの上の高いとねりこのように、露に濡れて頭を上げ、角を天まで輝かせる、すべての獣の上に立つ気高い牡鹿のように。
ヴァルハラのヘルギ
ヘルギを記念して、塚が築かれた。ヘルギがヴァルハラに着くと、オーディンは、自分とともにすべてを治めるよう言った。
ヘルギは、かつて自分が討ったフンディングに言った。フンディングよ、おまえはすべての勇士の足を洗い、火をおこし、犬をつなぎ、馬の世話をし、寝る前に豚に餌をやるのだ。
塚へ戻ってきた死者
ある夕方、シグルーンの侍女がヘルギの塚へ行くと、ヘルギが大勢の男たちとともに、馬で塚へやって来るのが見えた。侍女は言った。
これは夢なのでしょうか。それとも神々の滅びが来て、死んだ人々が馬で駆けてくるのでしょうか。勇士たちに、家へ帰ることが許されたのでしょうか。
ヘルギは答えた。おまえが見ていると思っているのは夢ではない。世界の終わりでもない。わたしたちは馬を急がせて来たが、勇士たちに帰郷が許されたのでもない。
侍女は館へ戻って、シグルーンに言った。シグルーンさま、民の王に会いたいのなら、セヴァフィョッルから出ていらしてください。塚が開いて、ヘルギさまが来ています。剣の傷から血が流れていて、王はその傷を治してほしいとおっしゃっています。
冷たい夫
シグルーンは塚の中のヘルギのもとへ行き、言った。
わたしはいま、二人が会えたことを喜んでいます。獲物をむさぼるオーディンの鷹が、温かい屍と血をかぎつけたとき、あるいは露に濡れて赤い夜明けを見たときのように。
あなたが血に染まった鎖帷子を脱ぐ前に、まず命のない王に口づけしたい。ヘルギ、あなたの髪は霜で重く、あなたは死の露に濡れている。ホグニの身内の手は氷のように冷たい。王よ、どうしたらあなたを楽にしてあげられるのでしょう。
ヘルギは言った。
セヴァフィョッルのシグルーンよ、ヘルギが露に重く濡れているのは、ほかでもない、あなたのせいなのだ。金で身を飾った乙女よ、あなたの涙はつらい。眠る前に流すあなたの涙の一粒一粒が、血のように勇士の胸に落ちるのだ。
愛も土地も失ったけれど、わたしたちは気高い飲み物を飲もう。胸に血を流す傷があっても、誰も嘆きの歌を歌ってはならない。いまこの塚の中で、わたしたちは花嫁たちを抱いている。夫に先立たれた、勇士たちの恋人を。
塚の中の寝床
シグルーンは塚の中に寝床をこしらえて言った。
ヘルギ、ユルヴィングの一族の人よ、あなたが悩みから休めるように、ここに寝床を整えました。生きていた王の腕に抱かれていたように、わたしはあなたを腕に抱いて眠らせてあげましょう。
ヘルギは言った。
これでもう、セヴァフィョッルで、朝であれ夕べであれ、起こらないことなど何もない。生きている王の娘が、この塚の中で、死者の腕に抱かれて眠るのだから。ホグニの娘よ、あなたは生きたまま、ここへ来たのだ。
だが、わたしはもう行かねばならない。赤く染まった道を馬で行き、わたしの栗毛の馬に空を踏ませて、西へ、風の兜の橋へ。雄鶏サルゴヴニルが勇士の群れを起こす前に。
こうしてヘルギと仲間たちは馬で去り、女たちは館へ帰った。
二度と来ない夕べ
次の夕方、シグルーンは侍女に塚を見張らせた。日が沈むころ、シグルーンは塚へ来て言った。
シグムンドの息子が、オーディンの座から来られるのなら、もう来ているはず。鷲がとねりこの枝にとまり、人々が夢の出会いを求めるころには、勇士が帰ってくる望みは薄れていく。
侍女は言った。勇士の娘さま、ひとりで死者の家を訪ねるなんて、正気とは思えません。夜になると、死者の霊は昼よりずっと強くなるのですから。
シグルーンは、悲しみと嘆きのために、まもなく死んだ。
昔は、人は生まれ変わると信じられていたが、いまではそれは老婆の愚かな話と言われている。けれどもヘルギとシグルーンは生まれ変わったと言われている。ヘルギはヘルギ・ハッディンギャスカティとなり、シグルーンはハールヴダンの娘カーラとなって、ヴァルキューリアになった。そのことは『カーラの歌』に語られているという。
出典について:本稿は『古エッダ』の「フンディング殺しのヘルギの歌 第二」の後半に基づく再話です(英訳は H・A・ベロウズ訳、1923年)。ダグがヘルギを討つ経緯や、侍女が塚を見張る場面などは写本の散文が語ります。塚でのヘルギの言葉にある「わたしたち」「花嫁たち」は、採用英訳第45節の複数形に従っています。ここで複数形がどの範囲を指すかは断定していません。結びの「生まれ変わり」についての言葉は、写本の散文そのものの言い方を再話したものです。
出典・資料
- 『古エッダ』Bellows訳・神々の歌と英雄詩 — 作品別の詩名・節を本文制作時に特定する
