NORSE · STORY
ヘジン、ホグニ、ヒルド――終わらない戦い
義兄弟の誓いを立てた二人の王ヘジンとホグニは、森の女ゲンドゥルの角杯によって引き裂かれる。娘ヒルドを奪われ王妃を殺されたホグニとヘジンの戦いは、斬っても斬っても起き上がる死者の戦いとなり、百四十年以上も続いた。二つの資料が伝える終わらない戦い。
森の女ゲンドゥル
『ソルリの話』は、こう語る。
セルクランドを治めるヒャッランディ王の息子ヘジンは、力も背丈も才もすぐれた若者だった。若くして海の王となり、スペインやギリシアのまわりを荒らして、二十人の王を従えた。
冬のある日、ヘジンは家来たちと森へ入り、ひとりで林の空き地に出た。そこには、背の高い美しい女が玉座に座っていた。女はゲンドゥルと名のった。ヘジンが、自分ほどの勇気と名声をもつ王を知っているかと尋ねると、女は答えた。一人知っている。あなたと同じく二十人の王を従える王で、名はホグニ。北のデンマークに住んでいる。
ヘジンは言った。それなら、どちらが勇ましいか確かめねばならない。
春の初め、ヘジンは三百六十人を乗せた戦船で北へ向かい、翌年の春にデンマークに着いた。
義兄弟の誓い
ホグニ王は、名高い王が来たと聞いて盛大な宴に招いた。遠く北まで来たわけを問われると、ヘジンは、勇気と腕前を競い合うためだと答えた。ホグニは受けて立った。
二人は泳ぎ、弓を射、馬上で槍を交え、あらゆる武芸と技を競った。けれども、どれをとっても二人は互角で、どちらがすぐれているか誰にも分からなかった。そこで二人は義兄弟の誓いを立て、すべてを等しく分け合うと約束した。
ヘジンは若く、まだ妻がいなかった。ホグニは少し年上で、王妃を迎えていた。そしてヒルドという一人娘がいて、美しさでも賢さでもほかのどの女にもまさっていた。ホグニは娘をこのうえなく愛していた。
忘れの角杯
しばらくして、ホグニは遠征に出かけ、ヘジンが留守の国を守った。ある日、ヘジンは森へ出て、また家来たちとはぐれた。林の空き地には、あのセルクランドで会ったのと同じ女が玉座に座っていた。前よりいっそう美しく見えた。
女は蓋のついた角杯を持っていて、それを差し出した。体が温まってのどが渇いていたので、ヘジンはそれを飲んだ。すると不思議な変化が起こり、それまでに自分の身に起きたことを何ひとつ思い出せなくなった。
女は言った。あなたとホグニは等しくはない。ホグニには高貴な生まれの妻がいるのに、あなたには妻がいないのだから。
ヘジンは、ホグニに頼めば、すぐにヒルドを嫁がせてくれるだろうと言った。
女は言った。ホグニに縁組を頼めば、あなたの名誉は損なわれる。勇気も武勇も劣らないと言うのなら、ヒルドを力ずくでさらうがいい。そして王妃を捕らえて戦船の舳先の前に寝かせ、船を海へ押し出すとき、真っ二つにさせるがいい。
ヘジンが飲んだ酒にこめられた悪と忘却の力はあまりに強く、ほかに道はないように思われた。ホグニと義兄弟であることも、まったく思い出せなかった。
ヒルドの願い
ヘジンは家来たちに戦船の支度を命じ、婦人たちの部屋へ入って、王妃とヒルドの手を取って連れ出した。国の誰も、ヘジンとその家来を恐れて、手出しをする勇気がなかった。
ヒルドは何をするつもりかと尋ね、ヘジンはそれを話した。ヒルドは考え直してほしいと頼んだ。わたしを求めてくれれば、父はあなたに嫁がせるでしょう。さらっていくとしても、父はあなたと和解するでしょう。けれども、母を殺すような邪悪で卑劣なことをすれば、父は決してあなたを許しません。あなたがた二人が戦って殺し合う夢を、わたしは見ました。でも、もっと恐ろしいことが待っているような気がしてならないのです。
ヘジンは、どうなろうとかまわないと言った。ヒルドは言った。もう取り返しはつきません。いまのあなたは、自分で自分を治めていないのですから。
ヘジンは浜へ下り、船が海へ押し出されるとき、王妃を舳先の前に突き出した。王妃は死んだ。
オーディンの呪い
船の支度が整うと、ヘジンはひとりで陸に上がり、あの森へ行った。ゲンドゥルは玉座に座っていた。ヘジンが自分のしたことを話すと、女はそれをよしとした。そしてまたあの角杯を差し出し、ヘジンは飲んだ。すると眠りが襲ってきて、ヘジンは女の膝に頭をのせて眠りこんだ。
女はそっとヘジンの頭の下から抜け出して言った。いま、わたしはおまえとホグニとその家来すべてを、オーディンの課すあらゆる呪いのもとに置く。
目を覚ましたヘジンは、去っていくゲンドゥルの影を見た。その姿はいまや大きく、黒く見えた。ヘジンはすべてを思い出し、自分がどれほどの悪事をはたらいたかを悟った。毎日自分の悪行を責められないような遠い所へ行こうと決め、ヒルドを連れて船出した。
ホイ島の戦い
帰ってきたホグニは、ヘジンがヒルドと戦船を連れ去り、王妃の亡骸を残していったことを知った。ホグニは怒り狂い、すぐに追いかけた。やがてヘジンは向かい風に阻まれ、ホイという島の沖に錨を下ろした。そこへホグニが追いついた。
ヘジンは礼をもって挨拶して言った。義兄弟よ、あなたのほかには誰も償えないほどの不幸がわたしに降りかかった。あなたの娘と戦船を奪い、奥方を殺してしまった。だがそれは、わたし自身の悪心からではなく、悪しき霊のそそのかしと邪悪な呪いのためなのだ。この件はすべてあなたの思うとおりにしてほしい。ヒルドも戦船も、そこにいる人々も財もすべて返し、二度と北へも、あなたの目の前にも戻らない遠い国へ去ろう。
ホグニは答えた。ヒルドを求めてくれたなら、おまえに嫁がせただろう。力ずくでさらったとしても、和解できたかもしれない。だが、奥方をあれほど恥ずべきやり方で殺した以上、決して和解はしない。いまここで、どちらが勇ましい戦士かを試そう。
ヘジンは、それなら二人だけで力を比べよう、罪のない者たちにわたしの悪行の償いをさせることはない、と言った。けれども家来たちは皆、二人だけで打ち合わせるくらいなら、自分たちが山のように倒れて死ぬほうがいいと誓った。
こうして皆は島に上がって戦いはじめた。呪いの力はあまりに強く、互いに肩まで切り裂いても、二人はまた起き上がって戦いつづけた。ヒルドは林に座って、その戦いを見ていた。この恐ろしい苦しみは、オーラヴ・トリュッグヴァソンがノルウェーの王になるまで、百四十三年続いたという。
キリスト教徒の剣
オーラヴ王が王となった最初の年、王はある夕方ホイ島に来て錨を下ろした。この島では、毎晩見張りの者が消えてしまい、どこへ行ったのか誰も知らなかった。
その夜の見張りは、きらめきのイーヴァルという男だった。船の皆が眠ると、イーヴァルは剣と鎧を身につけて島に上がった。すると、背の高い、血まみれの、悲しげな顔の男がこちらへ来るのが見えた。
男は、遠いセルクランドの一族の出で、ヒャッランディの息子ヘジンだと名のった。見張りが消えるのは、わたしとホグニのせいだ。わたしたちとその家来は強い呪いにかけられ、何代ものあいだ、昼も夜も戦いつづけている。ホグニの娘ヒルドは座ってそれを見ている。この呪いをかけたのはオーディンだ。救われる望みはただ一つ、キリスト教徒がわたしたちと戦ってくれること。その者に殺された者は、二度と起き上がらない。あなたはよいキリスト教徒で、あなたの仕える王は運に恵まれていると知っている。どうかわたしたちと戦ってほしい。
イーヴァルは承知した。ヘジンは言った。ホグニと正面から向き合ってはならない。わたしより先にホグニを殺さなければならない。わたしが先に死ねば、誰もホグニを倒せない。あの目のまなざしは恐ろしく、誰ひとり容赦しないのだ。わたしが前から攻めかかるので、あなたはうしろからとどめを刺してくれ。
二人は戦いに加わった。イーヴァルはホグニのうしろへ回り、その頭を打って肩まで切り裂いた。ホグニは倒れ、二度と起き上がらなかった。イーヴァルは戦っている者たちをすべて倒し、最後にヘジンを殺した。それはたやすいことだった。
翌日、王たちが島に上がって戦いの場所へ行ってみると、何の跡もなかった。けれどもイーヴァルの剣についた血が、何が起きたかを示していた。それ以来、その島で見張りが消えることは二度となかった。
もう一つの語り――ヒャズニングの嵐
『散文のエッダ』の「詩語法」第49章は、同じ戦いを、詩で戦いを「ヒャズニングの嵐」と呼ぶ由来として語っている。
そこでは、ヘジンはホグニが王たちの集まりに出ているあいだに、娘ヒルドを戦利品として奪っていく。ホグニがオークニーのホイまで追ってくると、ヒルドは父のもとへ行き、和解のしるしに首飾りを差し出した。受け入れないならヘジンは戦う用意がある、とも言った。ホグニは厳しく拒んだ。
ヘジンは多くの黄金で償おうと申し出たが、ホグニは答えた。もう遅い。わたしはダーインスレイヴを抜いてしまった。小人たちが作った剣で、抜かれるたびに人の死をもたらし、決して打ち損じず、かすり傷でも癒えないのだ。
二人の軍は一日じゅう戦い、夕方には船へ戻った。ところが夜になると、ヒルドは死者たちのもとへ行き、魔術で皆を生き返らせた。こうして毎日、倒れた者も、野に落ちた武器や盾も石に変わり、夜が明けると死者は起き上がって戦い、武器もすべて新しくなった。詩によれば、ヒャズニングの戦いは、神々の運命の時まで、このように続くのだという。
出典について:本稿の前半は『ソルリの話』(ソルラ・サーットル)第V〜IX章(英訳は N・カーショー訳『Stories and Ballads of the Far Past』、1921年)、最後の節は『散文のエッダ』「詩語法」第49章(A・G・ブロデュール訳、1916年)に基づく再話です。二つの資料は大きく異なります。『ソルリの話』では、オーディンの呪いを負った女ゲンドゥルがヘジンを惑わせて王妃を殺させ、戦いはオーラヴ王の家来の手で終わります。「詩語法」では王妃殺しもゲンドゥルも語られず、ヒルドが夜ごと死者を蘇らせ、戦いは世の終わりまで続きます。『ソルリの話』の前半(第I〜IV章)は、フレイヤの首飾りブリーシンガメンの由来を語る別の話で、本稿には含めていません。
出典・資料
- 伝説サガ集『Stories and Ballads of the Far Past』 — Nornagest / Sörli / Hromund Greipsson / Hervör and Heithrek。個別箇所は制作時確定
- スノッリ・ストゥルルソン『散文のエッダ』「詩語法」 — 作品全体。章番号はBrodeur訳に従い、他版の番号と混同しない
