NORSE · STORY
グズルーンの潔白を試す釜
アトリの館で、侍女ヘルキャは王妃グズルーンがシュズレク王と通じていると告げ口する。グズルーンは聖なる石にかけて潔白を誓い、煮えたぎる釜に手を入れて底の石を拾い上げてみせる。次に手を入れたのは、告げ口をしたヘルキャだった。
侍女の告げ口
アトリ王の館に、ヘルキャという侍女がいた。かつては王の愛人だった女である。ヘルキャはアトリに、シュズレク王とグズルーンがいっしょにいるところを見たと告げた。アトリはひどく腹を立てた。
『古エッダ』の「グズルーンの歌 第三」は、そのあとの出来事をうたう。シュズレクは、グズルーンとともに嘆きを語り合った王である(物語「シグルズを悼むグズルーン」)。
聖なる石にかけて
グズルーンは言った。
アトリ、ブズリの息子よ、何を悲しんでいるのですか。心が重いのですか。なぜ少しも笑わないのですか。遠くまで名の知れた戦士なら、人々と語り合い、わたしを見てくれるほうがふさわしいのに。
アトリは言った。
グズルーン、ギューキの娘よ、わたしを悩ませているのは、ヘルキャがこの広間で話したことだ。おまえが寝床でシュズレクと、亜麻布の下で恋人どうしのように寝ているというのだ。
グズルーンは言った。
それなら、誓いを立てましょう。聖なる白い石にかけて誓います。シュズマルの息子とのあいだには、男にも女にも知られて困るようなことは何もありませんでした。軍勢を率いるあの勇士を、一度も腕に抱いたことはありません。わたしたちが会ったのは別のわけで、ひそかに互いの悲しみを語り合ったのです。
シュズレクは三十人の戦士を連れてここへ来たのに、いまは家来の一人も残っていない。あなたはわたしの兄弟たちを、鎖帷子を着た男たちを殺した。わたしの一族の男たちを、皆殺しにした。
グンナルは来ない。ホグニに挨拶することもない。愛する兄弟たちに、もう会うことはできない。ホグニなら、剣でわたしの悲しみの仇を討ってくれたでしょうに。いまは、自分で自分の苦しみの償いを得るしかありません。
煮えたぎる釜
南の人々の王、サクシを呼んでください。あの人なら、煮えたぎる釜を清めることができます。
広間には七百人の人々が集まっていた。王妃はその前で、釜の中へ手を差し入れた。
輝く手は底まで届き、グズルーンはきらめく石を取り出した。
見なさい、戦士たちよ、とグズルーンは言った。釜の聖なる煮えたぎりによって、わたしの罪のないことが、はっきり明らかになりました。
ヘルキャの手
グズルーンの手に少しも傷がないのを見て、アトリの心は喜びに笑った。
アトリは言った。今度はヘルキャに釜を試させよう。グズルーンに悲しみを与えようとたくらんだ、あの女に。
ヘルキャの手がどれほど焼けただれたか、これほど痛ましい光景を見た者はいなかった。人々はその乙女を汚い沼に投げこんだ。こうして、グズルーンの悲しみは報われたのである。
出典について:本稿は『古エッダ』の「グズルーンの歌 第三」に基づく再話です(英訳は H・A・ベロウズ訳、1923年)。冒頭の状況は写本の散文によります。英訳者の注によれば、注記者はこの散文の内容を詩そのものから取っていて、ヘルキャがアトリの愛人だったという点だけが詩にない情報です。英訳者の序は、この詩は『古エッダ』の王の写本にだけ伝わり、『ヴォルスンガ・サガ』には取り入れられていないと述べています。
出典・資料
- 『古エッダ』Bellows訳・神々の歌と英雄詩 — 作品別の詩名・節を本文制作時に特定する
