NORSE · STORY
ヘルギとスヴァーヴァ
名をもたない無口な王子は、ヴァルキューリアのスヴァーヴァにヘルギという名と一振りの剣を授けられる。祖父の仇を討ち、夜の海で女巨人を夜明けまで引き止め、スヴァーヴァと誓いを交わしたヘルギ。だが弟ヘジンの酒席の誓いが、兄弟の運命を変えていく。
鳥の助言とシグルリン
ヒョルヴァルズという王がいた。王には妻が三人いて、それぞれに息子がいた。上の息子はヘジンといった。王は、知るかぎり最も美しい女を妻にすると、大きな誓いを立てていた。
スヴァーヴニル王の娘シグルリンが誰よりも美しいと聞いて、王はヤールのイズムンドの息子アトリを求婚に遣わした。アトリは言葉の分かる一羽の鳥と問答をし、鳥は、王が神殿と多くの祭壇と金の角の牛を捧げるなら、シグルリンが王の腕に眠るよう手を貸そうと言った。
一度目の求婚はうまくいかなかった。王は二度目には自ら出かけた。山の上から見ると、スヴァーヴァランドが燃えていた。アトリは見張りに出て川を越え、一軒の家を見つけた。屋根の上では、家を守る大きな鳥が眠っていた。アトリは槍を投げてその鳥を殺し、家の中にいた王の娘シグルリンと、ヤールの娘アーロヴを連れ出した。ヒョルヴァルズ王はシグルリンを、アトリはアーロヴを妻にした。
名を授けたヴァルキューリア
ヒョルヴァルズとシグルリンのあいだには、力強く立派な体つきの息子が生まれた。けれども無口な若者で、どんな名もその身につかなかった。
ある日、若者が丘に座っていると、九人のヴァルキューリアが馬で通りかかった。いちばん美しい一人が言った。
ヘルギよ、あなたはいつまでも黙っているなら、腕輪の宝も輝く野も、なかなか手にできないでしょう。鷲がすぐに叫ぶ――戦いが来るというのに。あなたの心が、どれほど強く叫んでいても。
ヘルギは言った。ヘルギという名とともに、わたしは何を贈られるのか、輝く乙女よ。名を与えるのはあなたなのだから。けれども、あなたを得られないのなら、そんな贈り物はいらない。
乙女は言った。シガルスホルムに、剣が横たわっているのを知っている。五十から四を引いた数がある。そのうち一振りが最もすぐれ、盾を砕き、金で輝いている。柄には名声が、握りには勇気が、切っ先には持ち主の敵への恐れが宿り、刃には血に染まった蛇が横たわっている。
この乙女は、エュリミ王の娘スヴァーヴァだった。空と海を駆けるヴァルキューリアである。こうしてスヴァーヴァはヘルギに名を与え、その後も戦いのなかで、たびたびヘルギを守った。
ヘルギは父に言った。父上、あなたの考えは正しくない。あなたは何の悪事もしなかった勇士たちの家を、火で焼かせた。それなのに、わたしたちの一族の宝はいまもフロズマルが握っている。
ヒョルヴァルズは、母方の祖父の仇を討ちたいのなら供をつけてやろうと言った。ヘルギはスヴァーヴァが教えた剣を手に入れ、アトリとともに出かけて、フロズマルを討ち、多くの偉業をなしとげた。
夜明けまでの言い争い
ヘルギは、ある山の上に座っていた巨人ハティも殺した。その後、ヘルギとアトリはハタフィヨルズに船を泊めた。
夜の前半、アトリが見張りをしていると、ハティの娘フリームゲルズが話しかけてきた。ハタフィヨルズにいる勇士たちは誰か。船は盾で覆われている。王の名を知りたい。
アトリは答えた。王の名はヘルギ。おまえが害を与えることは決してできない。王の船団には鉄が張ってあり、魔女の術も効かない。
二人は名のり合い、互いに激しくののしり合った。アトリは、おまえは船団の前に横たわって、王の家来たちを海の女神ラーンに渡そうとしていたと言い、フリームゲルズは、上陸して勝負しろ、わたしの爪にかかれば肋骨がまっすぐにされるぞ、と言い返した。アトリは、戦士たちが目を覚まして王を守るまでは、行かないと答えた。
フリームゲルズは、目を覚ましたヘルギに言った。父ハティを切り倒した償いをしてほしい。王と一夜をともに眠れたら、それでわたしの恨みはすべて晴れる。
ヘルギは言った。おまえはソルレイに住む巨人ロジンのものになるがいい。人に嫌われるおまえには、荒野に住む者のなかで最も悪いあの巨人がお似合いだ。
フリームゲルズは言った。あなたは昨夜、港を見張っていたあの乙女のほうを愛しているのでしょう。あの乙女さえいなければ、王の家来たちを殺せたのに。三の九倍の乙女たちがいて、先頭を行くのは兜をかぶった白い乙女だった。その馬たちが身を震わせると、たてがみから深い谷に露が落ちた。
アトリは言った。フリームゲルズよ、東を見よ。
ヘルギは言った。夜が明けたぞ、フリームゲルズ。アトリがおまえをここまで引き止めたのだ。おまえは命を失う。これからは港の目印として石になって立ち、人々に笑われるだろう。
ヘジンの誓い
ヘルギは力ある戦士となった。エュリミ王のもとへ行って娘スヴァーヴァに求婚し、二人は誓いを交わして深く愛し合った。スヴァーヴァは父のもとにとどまり、ヘルギは戦場にあった。スヴァーヴァは前と変わらずヴァルキューリアだった。
そのころ、兄のヘジンは父ヒョルヴァルズ王とともにノルウェーにいた。ユールの前夜、ヘジンは一人で森から帰る途中、狼に乗り、蛇を手綱にした女に出会った。女はいっしょに来てほしいと言ったが、ヘジンは断った。すると女は言った。その報いは、王の乾杯のときに受けることになる。
その夜、大いなる誓いが立てられた。聖なる猪が運びこまれ、男たちはそれに手を置いて、王の乾杯のもとで誓いを立てた。ヘジンは、弟ヘルギの恋人であるエュリミの娘スヴァーヴァを、自分の妻にすると誓ってしまった。そして大きな悲しみにとらわれ、南へと荒れた道を進み、弟ヘルギを探し当てた。
ヘジンは打ち明けた。弟よ、おまえにも取り返しのつかない悪いことをしてしまった。王の乾杯で、王の娘を――おまえの花嫁を――わたしの妻にすると選んでしまったのだ。
ヘルギは言った。悲しむな、ヘジン。二人が酒の席で立てた言葉は、きっと果たされる。ある勇士が、わたしに島へ来て戦えと言っている。三夜ののちにわたしはそこへ行く。帰ってこられるかどうかは分からない。
ヘルギがこう言ったのは、自分の死を予見していたからだと散文は語る。ヘジンが出会った狼に乗る女は、ヘルギにつき従う守り霊だったのである。
シガルスヴォッルの戦い
フロズマルの息子アールヴ王が、三夜ののち、シガルスヴォッルでヘルギと戦う場所を定めていた。ヘルギは言った。夕暮れに狼に乗った女がいて、自分についてきてほしがっていた。あの女はよく知っていた。シグルリンの息子が、シガルスヴォッルで倒れることを。
大きな戦いがあり、ヘルギは致命傷を負った。ヘルギはシガルを、エュリミの一人娘スヴァーヴァのもとへ急がせた。恋人が生きているうちに会いたければ、すぐに支度をするようにと。
シガルは言った。太陽の下で最も気高い王が、朝、フレカステインで倒れました。
スヴァーヴァが駆けつけると、ヘルギは言った。
ようこそ、スヴァーヴァ。悲しみをこらえてくれ。これが、生きて会う最後だ。勇士の傷からは激しく血が流れ、剣は心臓のすぐそばまで届いた。花嫁よ、泣くな。わたしの言葉を聞いてくれるなら、ヘジンのために寝床を整え、あの若い勇士に愛を与えてやってくれ。
スヴァーヴァは言った。ヘルギが腕輪を携えて求婚してくれたとき、わたしは誓いを立てた。たとえあの勇士が死んでも、名もない男を自分から腕に抱くことはないと。
ヘジンは言った。口づけをしてくれ、スヴァーヴァ。わたしはもう、故郷を見に帰らない。太陽の下で最も気高い王、ヒョルヴァルズの息子の仇を討つまでは。
ヘルギとスヴァーヴァは、のちに生まれ変わったと言われている。
出典について:本稿は『古エッダ』の「ヘルギ・ヒョルヴァルズソンの歌」に基づく再話です(英訳は H・A・ベロウズ訳、1923年)。出来事の多くは詩のあいだの散文が語り、詩は主に台詞です。このヘルギは、シグムンドの息子ヘルギ(ヘルギ・フンディングスバニ)とは別の人物として語られます(物語「ヘルギとシグルーン――戦いと婚姻」)。結びの「生まれ変わった」という言い方は写本の散文によります。女巨人とのののしり合いは一部を要約しました。
出典・資料
- 『古エッダ』Bellows訳・神々の歌と英雄詩 — 作品別の詩名・節を本文制作時に特定する
