NORSE · STORY
ゴート族とフン族の戦い
父ヘイズレクの仇を討ち魔剣テュルヴィングを取り戻したアンガンチュールのもとへ、フン族の王の孫である異母兄弟フレズが遺産の半分を求めに来る。「女奴隷の子」という一言から始まった大戦争で、姉妹ヘルヴォルは倒れ、兄弟はついに剣を交える。
魚の頭を切った剣
ヘイズレク王が九人の奴隷に殺されたあと(物語「ヘイズレク王と謎かけ」)、息子アンガンチュールは集会で、父が治めていたすべての国の王と宣言された。その集会でアンガンチュールは、父の仇を討つまでは父の玉座に座らないと固く誓った。
アンガンチュールはひとりで遠くまで旅をして、仇を探した。ある夕方、グラーヴという川に沿って海へ下っていくと、釣り舟に三人の男が乗っていた。一人が魚を釣り上げ、魚の頭を切るので小刀をよこせと仲間に言った。仲間が貸せないと言うと、男は言った。舵のそばにある剣を取ってくれ。
男はその剣を抜いて魚の頭を切り落とし、こう詠んだ。この川口のカマスは、ハルヴァジの山の下でヘイズレクを殺した報いを受けたのだ。
アンガンチュールは、それがテュルヴィングだとすぐに分かった。森へ行って暗くなるまで待ち、真夜中近く、漁師たちの寝ている天幕を引き倒して、九人の奴隷をすべて殺した。そして父の仇を討ったしるしとして、テュルヴィングを持ち帰った。家に帰ると、ダナペル川のほとりのアールヘイマルという所で、父のための盛大な葬宴を開いた。
遺産の半分
ヘイズレク王にはもう一人の息子フレズがいた。フン族の王女を母とし、祖父にあたるフン族の王フムリの宮廷で育った、美しく勇ましい若者だった。
父の死と、兄アンガンチュールが王になったことを知ると、フムリ王とフレズは、まずはおだやかな言葉で遺産の分け前を求めることにした。フレズは大軍を連れて東から馬で来て、アールヘイマルの葬宴の館に着いた。
使いの者がアンガンチュールに、勇ましい兄弟フレズが話をしたがっていると告げた。王は小刀を卓に投げ出して立ち上がり、鎖帷子を着て、片手に白い盾を、もう片手にテュルヴィングを取った。
アンガンチュールは言った。ようこそ、兄弟よ。中へ入って、ともに飲もう。まず父をしのんで蜜酒を飲もう。
フレズは言った。わたしたちは腹を満たすために来たのではない。そして求めた。ヘイズレクの持ち物すべての半分をもらいたい。槍も刃も宝も、家畜も土地も、女奴隷も男奴隷もその子らも、女奴隷が回す臼も。名高いミュルクヴィズの森の半分、ゴート人のあいだにある聖なる墓の半分、ダナペルの岸に立つ立派な柱の半分、ヘイズレクの城と土地と民と黄金の半分を。
アンガンチュールは答えた。白く輝く盾が割れ、槍と槍が打ち合い、多くの兜が地に伏すだろう。わたしが遺産の半分を、テュルヴィングの半分を、おまえに渡す前に。
けれども、アンガンチュールはこう申し出た。そのかわり、おまえの心が望むだけの宝を与えよう。千二百人の従者と千二百頭の馬、彼らを武装させる千二百人を与えよう。一人ひとりの男に乙女を、一人ひとりの乙女に腕輪を。そしてゴート人の三分の一を、おまえ一人で治めさせよう。
老ギズルの一言
そこには、かつてヘイズレク王の養父だった老ギズルがいた。ギズルは、王の申し出は多すぎると思って言った。
アンガンチュール王は気前がいい。おまえの母は女奴隷にすぎず、父が王だったというだけなのに。おまえはただの私生児なのに、王が宝と土地を分けるとき、名誉ある席を与えられるのだから。
申し出を受ければ、私生児で女奴隷の子と呼ばれることになる――フレズはひどく腹を立て、家来を連れてすぐに祖父フムリのもとへ帰った。孫が女奴隷の子と呼ばれたと聞いて、フムリ王もひどく怒った。
その冬、二人は静かに過ごした。けれども翌春、フン族の国から戦える男がいなくなるほどの大軍を集めた。十二歳以上で武器を持てる者はすべて、二歳以上の馬はすべて軍に加わった。軍勢は千の単位で数えるほど大きかった。軍は、フン族の国とゴート人の国を隔てるミュルクヴィズの森を越えた。
ヘルヴォルの最期
森を抜けると、人の多い平らな土地が広がり、立派な砦が一つ立っていた。その砦を守っていたのは、アンガンチュールとフレズの姉妹ヘルヴォルで、養父オルマルもいっしょだった。ヘルヴォルは美しい娘だったが、男のように背が高く力強く、弓と矢の使い方を身につけていた。
ある朝、日の出のころ、ヘルヴォルが城門の上の塔に立って南の森を見ると、大軍の馬が巻き上げる砂塵が太陽を長いあいだ隠していた。やがて砂塵の下に、金を見ているかのような輝きが見えた。金をかぶせた盾、金の兜、白い鎖帷子――フン族の軍勢が、おびただしい数で押し寄せてくるのだった。
ヘルヴォルは急いで塔を降り、角笛を吹かせて兵を集めた。そしてオルマルに、フン族のところへ馬で行き、南の門の前で戦いを挑むよう命じた。オルマルはそのとおりにし、ヘルヴォルは全軍を率いて砦から出て、フン族と激しく戦った。
けれどもフン族の軍ははるかに多く、ヘルヴォルの兵は大きな損害を受けた。ついにヘルヴォルは倒れ、そのまわりの兵も多くが倒れた。それを見たオルマルは、生き残った者たちとともに逃げ、昼も夜も馬を走らせて、アールヘイマルのアンガンチュール王のもとへ着いた。
オルマルは告げた。ミュルクヴィズの森はすっかり焼かれ、ゴートの国は戦士たちの血に染まっています。ヘイズレク王の娘は剣に倒れました。あなたの姉妹ヘルヴォルはもういません。フン族が彼女の命の血を流したのです。
アンガンチュール王はそれを聞くと唇を引き結び、しばらく口をきかなかった。それから言った。気高い妹よ、兄弟らしからぬ扱いを受けたものだ。
ドゥンヘイズへの挑戦
アンガンチュールが家来を見渡すと、その数は少なかった。蜜酒を飲むときには大勢いたゴートの戦士が、いざというときには、これほど少ない。どれほど褒美を出すと言っても、盾を取ってフン族の大軍を探しに行こうという者は一人もいない。
すると老ギズルが言った。わたしはびた一文も、金貨も求めない。盾を取り、数えきれないフン族の軍勢のところへ馬で行こう。
ギズルは若者のように馬に跳び乗った。どこで戦いを挑めばよいかと問うと、アンガンチュールは言った。デュルギャとドゥンヘイズで、ヨースルの山々のすべての高みで戦いを挑め。そこはゴート人がたびたび輝かしい勝利を得てきた所だ。
ギズルはフン族の軍の、声の届くところまで馬を進めて叫んだ。おまえたちの軍は恐れに取りつかれ、おまえたちの王は倒れる運命にある。旗が高く翻っていても、オーディンはおまえたち皆に怒っている。ヨースルの山々へ、デュルギャとドゥンヘイズへ戦いに来い。オーディンの槍が、おまえたちの軍の真ん中に落ちるだろう。
フレズはギズルを捕らえよと叫んだが、フムリ王は、ひとりで来た使者を傷つけてはならないと止めた。ギズルは馬に拍車を当てて、アンガンチュール王のもとへ帰った。
アンガンチュールは四方に使いを送って、武器を持てる者をすべて集め、大軍でドゥンヘイズへ進んだ。そこへ、それより半分も多いフン族の軍勢が押し寄せた。
兄弟の剣
戦いは翌日に始まり、一日じゅう戦って、夕方にはそれぞれの陣へ戻った。こうして八日間戦いが続いたが、王たちは誰も傷を負っていなかった。死者の数は誰にも数えられなかった。
けれどもアンガンチュールの旗のもとには、昼も夜も、あちこちから兵が集まってきたので、軍は少しも減らなかった。フン族は、勝つほかに滅びを逃れる道はないと知って、必死に戦った。ゴート人は、自分たちの自由と故郷をフン族から守るために踏みとどまり、互いに励まし合って戦った。
その日の終わり近く、ゴート人はあまりに激しく攻めたので、フン族の列は崩れはじめた。それを見たアンガンチュールは、盾の壁のうしろから戦いの最前線へと進み出て、テュルヴィングを手に、人も馬もなぎ倒した。フン族の王たちの前の列が割れ、フレズは兄弟と打ち合った。
フレズとフムリ王は倒れ、フン族は逃げだした。ゴート人は逃げる者を切り倒し、その殺戮はあまりに大きかったので、川は死体でせき止められて流れを変え、谷は死んだ人と馬で埋まった。
ノルンの悪い定め
アンガンチュールは死者のあいだを探し、兄弟フレズを見つけた。そして言った。
兄弟よ、わたしはおまえに惜しみなく富を申し出た。たくさんの宝を、家畜と土地の富を、きらめく黄金の富を。けれどもおまえは戦いに賭けて、望みも、数えきれない誉れも失ってしまった。兄弟よ、わたしたちには呪いがかかったのだ。わたしはおまえに滅びをもたらした。この行いは決して忘れられまい。ノルンの定めは、あまりに悪い。
アンガンチュールはその後、長くレイズゴタランドの王として国を治め、力強く気前のよい偉大な戦士となった。その血筋から、多くの王の家系が生まれたという。
出典について:本稿は『ヘルヴォルとヘイズレクのサガ』第XII〜XV章に基づく再話です(英訳は N・カーショー訳『Stories and Ballads of the Far Past』、1921年)。英訳者は、フレズの要求やギズルの言葉など、サガに組みこまれた古い詩を韻文に訳していて、本稿ではその内容を散文で述べました。この戦いの話には、ゴート人やフン族、ダナペル(ドニエプル)川など歴史上の民族や地名が出てきますが、これはサガが伝える伝説の戦いであり、史実の出来事として読むことはできません。テュルヴィングの呪いがヘルヴォルの子孫に及ぶことは、物語「ヘルヴォルと魔剣テュルヴィング」で塚の中のアンガンチュールが予言していました。
出典・資料
- 伝説サガ集『Stories and Ballads of the Far Past』 — Nornagest / Sörli / Hromund Greipsson / Hervör and Heithrek。個別箇所は制作時確定
