NORSE · STORY
ヘルヴォルと魔剣テュルヴィング
小人に無理やり作らせた剣テュルヴィングは、抜かれるたびに人を殺す呪いを負っていた。剣とともに死んだ父アンガンチュールの塚へ、男の姿の娘ヘルヴォルが炎をくぐって乗りこみ、死者を呼び起こして剣を求める。伝説サガが伝える、墓の父と娘の問答。
小人の剣
オーディンの息子だと言われるシグルラミという王がいた。その息子スヴァフルラミが王位を継ぎ、たいへんな戦士となった。
ある日、王は狩りに出て家来たちとはぐれ、日の沈むころ、大きな石のそばに二人の小人がいるのを見つけた。王は、刻み文字のある剣を振るって、二人が石の中へ逃げこめないようにした。小人たちは命乞いをした。名を問われると、一人はドヴァリン、もう一人はドゥリンと名のった。
王は言った。おまえたちは小人のなかで最も腕がいいのだから、わたしのために剣を作れ。できるかぎりの最上の剣を。柄も握りも金で、鉄を布のようにたやすく切り、決して錆びず、戦いでも一騎打ちでも、使う者に勝利をもたらす剣を。
小人たちは承知し、王は馬で帰った。
約束の日に王が石のところへ来ると、小人たちは外にいて、たいそう美しい剣を王に手渡した。けれども、石の戸口に立ったドヴァリンはこう言った。
スヴァフルラミよ、あなたの剣は、抜かれるたびに一人の男の死をもたらす。それだけでなく、三つの悪事の道具となる。そしてあなた自身にも、死をもたらすだろう。
王は剣で小人たちに打ちかかった。けれども二人は石の中へ跳びこみ、剣は石に打ちおろされて、刃の両側の稜が隠れるほど深く食いこんだ。小人たちが消えると同時に、石の戸が閉じたのである。王はその剣をテュルヴィングと名づけ、それからはいつも戦いと一騎打ちに携え、いつも勝った。
十二人の狂戦士
そのころ、アルングリームというヴァイキングが、スヴァフルラミ王の国を襲った。二人が向かい合ったとき、王がテュルヴィングで打ちかかると、アルングリームは盾で受けた。盾の下半分が切り落とされ、剣は地面に突き刺さった。その隙に、アルングリームは王の手を切り落とした。王はテュルヴィングを取り落とし、アルングリームはそれを拾い上げて、まず王を、それから多くの者を切り倒した。アルングリームは王の美しく賢い娘エイフーラを連れて、ボルムの島の家へ帰った。
アルングリームとエイフーラのあいだには、十二人の息子が生まれた。いちばん上はアンガンチュールで、ほかの男より頭一つ背が高かった。兄弟はみな狂戦士で、力も勇気も並ぶ者がいなかった。テュルヴィングはアンガンチュールが持った。
テュルヴィングには、こんな性質があった。鞘から抜くと、暗闇の中でも日の光のように輝いた。そして、温かい人の血がついていなければ、鞘に収めることができなかった。テュルヴィングに血を流された者で、次の日を迎えた者はいなかった。
サームセイの塚
あるユールの前夜、アンガンチュールは誓いの杯の前で、ウプサラの王の娘インギビョルグを妻にする、さもなければ死ぬと誓った。けれども王の前で、勇士ヒャルマルも同じ娘を求めた。王は娘に選ばせ、インギビョルグは、悪い噂しか聞かない者より、よく知っている人のほうがいいと言って、ヒャルマルを選んだ。
アンガンチュールはヒャルマルに、真夏にサームセイの島へ来て一騎打ちをせよと挑んだ。その前にアンガンチュールは、ビャルトマル伯の娘を妻に迎えた。
サームセイの島で、ヒャルマルの友オッドがアンガンチュールの十一人の兄弟を倒し、ヒャルマルがアンガンチュールを倒した。ヒャルマルも傷のために死んだ。オッドはアルングリームの息子たちを、すべての武器とともに大きな塚に葬った。
男の姿の娘
やがて、ビャルトマル伯の娘は女の子を生んだ。父方の一族に似たら女らしい心はもたないだろうと、皆はその子を捨てるよう勧めた。けれども伯はその子に水をそそいでヘルヴォルと名づけ、養育した。アルングリームの息子たちの血筋を絶やさないために、と。
ヘルヴォルは美しく、背が高く力の強い娘に育ち、弓や盾や剣の使い方を自分で身につけた。けれども、何かができるようになると、たいていよいことより悪いことをした。とがめられると森へ逃げこみ、金を得るために人を殺した。
ある日ヘルヴォルは、ここにいても楽しくないので出ていきたいと言い、男の服を着て武装し、ひとりで出ていった。そしてヴァイキングの一団に加わって、ヘルヴァルズと名のった。まもなく首領が死に、ヘルヴァルズが一団を率いるようになった。
ある日、一行はサームセイに船を寄せた。ヘルヴァルズは上陸したが、部下たちは、夜にこの島で外にいるのは危ないと言って、ついて来なかった。
ヘルヴァルズは羊飼いの少年に、「ヒョルヴァルズの塚」と呼ばれる所はどこかと尋ねた。少年は言った。昼でも誰も行かない所を夜に探るなんて、気がちがっている。日が沈むと、塚の上には炎が燃える。わたしの家へおいで。来てくれるなら、この首飾りをあげるから。
ヘルヴァルズは、おまえの持ち物すべてをくれても引き止められはしないと答えた。日が沈むと、島じゅうに大きなとどろきが響き、塚から炎が噴き出した。少年は怖くなって、振り返りもせず森へ逃げていった。
塚の父を呼び起こす
ヘルヴォルの胸には、固く鍛えた心が誇り高く湧き上がった。塚の火と、外に立つ死者の霊が見えた。ヘルヴォルは恐れずに近づき、炎をただの煙のように通り抜けて、狂戦士たちの塚にたどり着いた。そして叫んだ。
目を覚ませ、アンガンチュール。わたしの言うことを聞け。あなたのただ一人の娘がここにいて、目を覚ませと言っている。かつて小人たちがスヴァフルラミのために作った鋭い剣を、塚の陰から渡しなさい。死者がそんな高価な剣を持っているのはふさわしくない。渡さなければ、あなたがたの肋骨に、狂おしいかゆみと痛みを呪いでもたらしてやる。
アンガンチュールは答えた。娘ヘルヴォルよ、なぜわたしたち皆に呪いの言葉を投げかける。おまえは自分の破滅へ向かっている。気がふれたのか、心が迷っているのか、墓の中の死者を起こすとは。
ヘルヴォルは言った。本当のことだけを言いなさい。わたしはあなたのただ一人の娘なのに、あなたは跡継ぎのものを渡そうとしない。
塚が開き、島をぐるりと炎の輪が取り巻いた。アンガンチュールは言った。塚が開いていく。島じゅうが燃え上がり、ヘルの門が大きく開いている。恐ろしい亡霊たちが歩きまわっている。娘よ、急いで潮を待つ船へ戻れ。
ヘルヴォルは言った。夜に燃える葬いの火も、わたしを震えさせはしない。たとえ墓の戸口に亡霊が立っていても、あなたの娘の心は恐れを知らない。
呪いの予言
アンガンチュールは言った。ヘルヴォル、ヘルヴォル、聞け。必ず起こることを、本当のことだけ言おう。テュルヴィングは、おまえの子孫すべての呪いとなる。おまえの一族が絶えるまで。おまえは息子を生む。その子はテュルヴィングで力強く戦い、テュルヴィングの力を頼みにする。その名はヘイズレク。天の下で最も気高く名高い者になるだろう。
ヘルヴォルはひるまず、塚の中の剣――ヒャルマルの命を奪った剣――を渡せと迫った。アンガンチュールは、ヒャルマルを殺した剣は自分の肩の下にあり、炎に包まれている、その剣を手に取る勇気のある乙女などどこにもいないと言った。ヘルヴォルは、その剣を手にしたいと願う乙女がここにいる、塚の火がどれほど燃えても、わたしの前で沈み、消えていくと答えた。
渡された剣
ついにアンガンチュールは言った。ヘルヴォル、ひるむことなく炎の中へ目を見開いて飛びこむのは、狂気の沙汰だ。それよりは、気が進まないが、この呪われた剣をおまえにやろう、小さな、か弱い娘よ。
ヘルヴォルは言った。ヴァイキングの子よ、よくぞ墓の中からテュルヴィングを渡してくれた。北の広い国々の女王となり、ノルウェーを征服するより、いまテュルヴィングをこの手に握るほうが幸せだ。
アンガンチュールは言った。その喜びはむなしい、不運な娘よ。おまえの望みは偽りだ。たちまち、その顔から喜びの色は消えるだろう。聞くのだ、警告しているのだ。この剣は運命の剣、おまえの一族すべてを滅ぼすものなのだ。
ヘルヴォルは言った。わたしの船へ帰ろう。王の娘はいま、心から喜んでいる。まだ夢にも見ない子どもたちの運命など、何を気にすることがあろう。好きなように争えばいい。
アンガンチュールは言った。鞘から抜かずにいれば、ヒャルマルの命を奪ったこの刃を、悲しみも苦しみもなく持っていられる。この呪われたものは疫病よりもたちが悪い。刃に触れてはならない。上にも下にも毒がついているのだから。さらばだ。兄弟とわたしから去っていった命――力と勢いと大胆さ、わたしたちのもっていた偉大でよいものすべて――を、おまえに与えてやりたいのだが。
ヘルヴォルは言った。さらば、さらば、死者たちよ。早くここを去りたい。墓の火に囲まれていたあいだ、わたしは本当に、生と死の世界のはざまで恐怖に息をしていた。
剣とともに
ヘルヴォルが船のほうへ戻ると、夜明けには船はもういなかった。ヴァイキングたちは、島のとどろきと炎に怯えて去ってしまったのである。ヘルヴォルは別の船に乗せてもらい、グラシスヴェッリルのグズムンドのもとへ行って、ヘルヴァルズと名のったまま冬を過ごした。
ある日、グズムンドが盤上遊びをしていたとき、誰かがテュルヴィングを手に取って抜いた。それを見たヘルヴァルズは剣を奪い取り、その者を殺して部屋を出ていった。
その後ヘルヴォルは、長く海賊として成功を収めた。それにも飽きると、母方の祖父ビャルトマル伯のもとへ帰り、ほかの娘たちと同じように刺繍や細かな針仕事をして暮らした。やがてグズムンドの息子ヘヴズが求婚し、ヘルヴォルは彼の妻となった。二人のあいだには、アンガンチュールとヘイズレクという二人の息子が生まれた。
出典について:本稿は『ヘルヴォルとヘイズレクのサガ』第II〜V章と第VI章の初めに基づく再話です(英訳は N・カーショー訳『Stories and Ballads of the Far Past』、1921年)。塚の場面は、サガの中で詩としてうたわれています(英訳者は韻文に訳しています)。サームセイでの戦いの詳しい様子は、サガ自身が「『オルヴァル・オッドのサガ』に語られている」と述べており、本稿では扱っていません。伝説サガは、神話と英雄の物語を中世アイスランドで書きとめた物語で、地名や王の名を史実として読むことはできません。
出典・資料
- 伝説サガ集『Stories and Ballads of the Far Past』 — Nornagest / Sörli / Hromund Greipsson / Hervör and Heithrek。個別箇所は制作時確定
