ENCYCLOPEDIA · 北欧神話
散文のエッダ
Prose Edda
13世紀アイスランドのスノッリ・ストゥルルソンの作とされる書物。詩の作り方を説く手引きで、その中で北欧神話の物語を数多く語る。
どんな本か
『散文のエッダ』は、13世紀アイスランドの有力者で詩人でもあったスノッリ・ストゥルルソン(1179〜1241年)の作とされる書物である。北欧で古くから作られてきた詩の作り方を説く手引きで、その中で神々の物語を数多く語っている。『スノッリのエッダ』とも呼ばれる。
四つの部分
本は、前置きにあたる「序」と、三つの主な部分から成る。
「序」は、天地創造とノアの洪水のあと、人々が神を忘れていったいきさつを語り、続いてトロイアから出たオーディンたちが北の国々へ移り、人々に神のように思われるようになった次第を述べる。
第一部「ギュルヴィたぶらかし」では、スウェーデンの王ギュルヴィが問い、三人の語り手が答えるという形で、世界の始まりから終わり、そしてその後の再生までの神話が語られる。
第二部「詩語法」は、海の神エーギルが問い、詩の神ブラギが答える対話で始まる。詩の中で物を言い換える表現や、詩にふさわしい呼び名を説明し、その背景になった物語も語る。
第三部「韻律一覧」(ハーッタタル)は、ノルウェーのハーコン王とスクーリ公をたたえる102節の詩である。節ごとに異なる詩の形を示し、散文の解説を添えている。
1916年に英訳したA・G・ブロデュールは、この本全体を若い詩人のための教科書とみなし、第一部は詩に必要な神話の知識を与える部分だと説明している。
作者と成立
作者をスノッリとする主な根拠は、おそらく現存最古の写本である「ウプサラ写本」の冒頭の見出しである。そこには、この本の名はエッダで、スノッリ・ストゥルルソンがまとめたものだと記され、アース神族とユミルの話、詩語法、ハーコン王とスクーリ公をたたえた韻律一覧という順に内容が示されている。
いつ書かれたかは分かっていない。スノッリは1218〜20年にノルウェーの宮廷を訪れており、韻律一覧はその後まもなく書かれ、最初にできた部分かもしれないと考えられている。ほかの部分は長い年月をかけてまとめられた可能性がある。
本はウプサラ写本をはじめ、主に14世紀に書かれた複数の写本で伝わっている。どれもスノッリの死から半世紀以上あとに書かれたもので、写本ごとに言葉づかいや内容がかなり異なり、スノッリが書いたままの形を伝えるものはないと考えられている。「序」や、第一部の最初の段落と最後の段落の一部については、少なくとも今の形ではスノッリの筆ではないとする説もある。
「エッダ」の名と『古エッダ』
「エッダ」という言葉のもとの意味は分かっていない。14世紀には「詩の技法」という意味で理解されていた。
17世紀に、神話や英雄をうたった古い詩を集めた写本が見つかると、その詩集にもエッダの名が付けられ、『古エッダ』(『詩のエッダ』)と呼ばれるようになった。スノッリの本を『散文のエッダ』と呼ぶのは、この詩集と区別するためである。ただし、名前に「古」と付いていても、詩が一冊の写本に集められたのがスノッリの本より前だったとは限らず、どちらが先かははっきりしない。
神話を知る手がかりとして
『散文のエッダ』は、古い北欧の詩を読み解くための欠かせない手引きであり、ほかでは失われてしまった多くの詩句や神話の内容を今に伝えている。世界の始まりやオーディンの片目の話など、このサイトの物語や事典の多くも、この本の第一部「ギュルヴィたぶらかし」に拠っている。
一方で、スノッリはキリスト教徒であり、古い神話を一つの筋にまとめ直して書いている。書かれた内容がそのまま異教の時代の信仰の姿を伝えているとは限らない点には、注意が必要とされる。
登場する物語
関連する事典項目
出典
- スノッリ・ストゥルルソン『散文のエッダ』「ギュルヴィたぶらかし」
- 原題
- Gylfaginning
- 該当箇所
- 作品全体。記事ごとの章節は制作記録で特定する
- 参照訳
- Arthur Gilchrist Brodeur, The Prose Edda (1916)
2026-10-28、収録計画のため目次と一部本文を確認。全記事の本文照合済みを意味しない。既存の章別出典レコードは変更しない。
- A・G・ブロデュール訳『散文のエッダ』訳者序論
- 原題
- The Prose Edda, Introduction
- 該当箇所
- 序論(底本 pp. ix–xxii)。スノッリの生涯と著作、写本、作品の四つの部分と目的、「エッダ」の名
- 参照訳
- Arthur Gilchrist Brodeur, The Prose Edda (1916)
1916年の訳者による解説で、作品の構成と成立の説明に用いる。写本の数え方などは後年の研究(フォークス校訂版の序論)と異なる箇所があり、その場合は両者を区別して扱う。
- スノッリ・ストゥルルソン『散文のエッダ』「序」
- 原題
- Prologue
- 該当箇所
- 序(底本 pp. 3–9)。天地創造と洪水、トロイア、アース神族の北方への移住、スウェーデン王ギュルヴィ
- 参照訳
- Arthur Gilchrist Brodeur, The Prose Edda (1916)
章立てはBrodeur訳に従う。序がスノッリ自身の筆によるかには議論がある。
- アンソニー・フォークス校訂『スノッリ・ストゥルルソン エッダ 序とギュルヴィたぶらかし』序論 http://www.vsnrweb-publications.org.uk/Edda-1.pdf
- 原題
- Snorri Sturluson, Edda: Prologue and Gylfaginning, ed. Anthony Faulkes, Introduction
- 該当箇所
- 序論(pp. xi–xxviii)。あらすじ、作者、題名、エッダの内容、典拠と手本、写本
- 参照訳
- Anthony Faulkes (ed.), 2nd ed., Viking Society for Northern Research, University College London (2005)
古ノルド語テキストの校訂版。序論(英語)を、作者・成立・写本・資料としての扱いに関する研究の説明として参照した。本文の古ノルド語テキストは照合していない。発行元が無償で公開しているPDF(2026-10-28時点、httpsでは接続できずhttpで取得)。
