NORSE · STORY

スヴィプダグとメングロズ――母の呪歌と炎の館の門番

継母に、誰も行けない所にいる乙女メングロズを探せと命じられた若者スヴィプダグは、死んだ母グローアを墓から呼び起こし、九つの呪歌を授かる。炎に囲まれた館の前で門番と問答を重ねた末、門が開く。

墓の母を起こす

若者スヴィプダグは、死者の戸口で呼びかけた。

目を覚まして、グローアよ。目を覚まして、よい母よ。死者の戸口で、わたしは呼んでいる。思い出してほしい。困ったときには死の丘へ来て助けを求めよと、あなたは息子に言ったではないか。

グローアは答えた。ひとり息子よ、どんな災いに苦しんでいるのか。どんな悪い運命にあったというのか。土の下に横たわり、生きた者の世界を去った母を呼ぶとは。

スヴィプダグは言った。父が抱いた偽りの女が、わたしに悪い遊びをしかけたのです。誰も行けない所へ出かけて、メングロズという乙女を探してこいと命じたのです。

グローアは言った。道は長い。長くさまようことになるだろう。けれども愛もまた長い。運命が味方してくれれば、望むものを見つけられるかもしれない。

スヴィプダグは言った。では母上、よい呪歌を歌って、息子を守ってください。わたしの行く道には死が待っていそうで恐ろしい。それに、わたしはまだ年若いのです。

九つの呪歌

グローアは歌った。

まず一つめ。たびたび試されてきた呪歌で、ラニがリンドに教えたもの。気に入らないものは肩から振り払え。おまえ自身がおまえの助け手となる。

二つめ。あてのない道をさまよわねばならないときに。運命の女神ウルズの閂が、行く道の四方でおまえを守る。

三つめ。危険な流れが死をもたらしそうなときに。水はヘルの国へと引き返し、おまえの前で涸れる。

四つめ。絞首台への道で敵が襲ってくるときに。敵の心はおまえの手に渡り、戦士たちは和平を望むだろう。

五つめ。縛めが手足を縛ったときに。ほどきの呪文をおまえの腿に歌えば、錠ははじけ、足かせは足から落ちる。

六つめ。人の知らぬ力をもつ嵐が海に起きたときに。風も波もおまえを害さず、舟の道は穏やかになる。

七つめ。高い岩山で霜がおまえを殺そうとするときに。死をもたらす寒さもおまえの体をつかまず、体は損なわれない。

八つめ。夜の暗い道をさまようときに。キリスト教徒の女の呪いも、死者のもとからおまえに害をなさない。

九つめ。戦を好む巨人と言葉で争わねばならないときに。おまえの心には知恵がたっぷりあり、口には賢い言葉があるだろう。

さあ、危険の待つ道を行け。災いのために愛を弱めてはならない。わたしは大地に据えられた石の戸口に立って、おまえに呪歌を歌った。息子よ、母の言ったことを持っていき、胸の中に生かしておけ。わたしの言葉が続くかぎり、最上の幸運がいつもおまえのものだ。

炎に囲まれた館

やがて、スヴィプダグは巨人の高い館の前にたどり着いた。館のまわりには炎が燃えていた。そして館の前に、誰かが立っているのが見えた。

館の前にいるのは、どんな巨人だ。まわりで火が燃えているが。

番人は言った。ここで何を探している。何を知りたいのだ、友のない者よ。ぬかるんだ道を通って立ち去れ。弱虫め、ここにおまえの家はない。わたしはフィョルスヴィズ。賢い者だと言われるが、食べ物には物惜しみをする。おまえは決してこの館に入れない。狼のように去っていけ。

旅人は言った。恋しい人の姿を探しに来た者が、目の喜びを捨てて立ち去ることはめったにない。この金の館の門はまばゆく輝いている。わたしはここに住まいを得るのだ。

番人は、どの父から生まれ、どの一族の出かと尋ねた。旅人は本当の名を告げなかった。わたしはヴィンドカルド、ヴァルカルドの息子で、その父はフィョルカルドだ。

門番との問答

旅人は、一つずつ尋ねていった。フィョルスヴィズよ、問いに答えてくれ。わたしは本当のことが知りたいのだ。

この豊かな館を治めているのは誰か。――メングロズである。母がスヴァヴルソリンの息子とのあいだに生んだ娘だ。

この門は何と呼ばれるか。――スリュムギョッル。ソールブリンディの三人の息子が作った。掛け金を上げた者は、足かせのように捕らえられてしまう。

この館は何と呼ばれるか。――ガストロプニル。昔わたしが、レイルブリミルの手足から作った。世界が続くかぎり立っていられるよう、しっかりと支えてある。

あらゆる国に枝を広げているあの木は何と呼ばれるか。――ミーマメイズ。どんな根が下を走っているのか誰も知らない。何がこの木を倒すのか、知る者はほとんどいない。火も鉄も、この木を倒せはしない。その実は、出産に苦しむ女たちが火にかけるために求め、そうすれば中にあったものが外へ出てくる。

いちばん高い枝で金色に輝いている雄鶏は。――ヴィゾヴニル。ミーマメイズの枝の上で稲妻のように光り、スルトとシンモラをひどく悩ませている。

館の前で荒々しく吠えている犬たちは。――ギーヴとゲリ。神々が死に定められる時まで、その力は増していく。二匹は同時には眠らない。一匹は夜に、もう一匹は昼に眠るので、誰も入ることはできない。

犬に与えて、食べているあいだに中へ跳びこめるような肉はないのか。――雄鶏ヴィゾヴニルの体にある二つの翼の肉だけが、それにあたる。

では、ヴィゾヴニルを倒せる武器は。――レーヴァテイン。昔ロプト(ロキ)が死の戸口でルーンを用いて作ったもので、シンモラのそばのレーギャルンの箱に、九つの錠をかけて納められている。それを手に入れて戻ってこられるのは、黄金の女神に贈る、めったに手に入らない宝を持っていった者だけだ。その宝とは、ヴィゾヴニルの羽の中にある輝く鎌である。それをシンモラに渡せば、武器を得ることを許されるだろう。

旅人はさらに、炎に囲まれた館の名、それを造った者たち、乙女が横たわる山の名を尋ねた。山はリュフャベルグといい、長く病んでいた女でも、そこへ登ればよくなるという。メングロズの膝もとに楽しげに座る乙女たちの名も尋ねた。フリーヴ、エイル、アウルボザ……。乙女たちは、聖なる祭壇に捧げ物をする者をすぐに助け、人の子らに危険が迫れば、災いから守るという。

門が開く

最後に、旅人は尋ねた。美しいメングロズの腕の中で眠ることのできる男はいるのか。

フィョルスヴィズは答えた。そんな男は一人もいない。ただスヴィプダグだけは別だ。太陽のように輝くあの乙女は、スヴィプダグの花嫁となるよう定められているのだから。

旅人は言った。門を開け放て。入口を広く開けよ。ここにスヴィプダグがいるのだ。メングロズがわたしに喜びをくれるかどうか、行って確かめてこい。

フィョルスヴィズは言った。メングロズよ、聞いてください。一人の男が来ました。客を見にいらしてください。犬たちはじゃれつき、館はひとりでに開きました。きっとスヴィプダグです。

メングロズは言った。もしうそをついているのなら、おまえは高い絞首台の上で、飢えた鴉たちに目をついばまれるだろう。あの勇士がついにわたしの館に来たというのなら。

メングロズは旅人に尋ねた。どこから、どうしてここへ来たのか。一族はおまえを何と呼ぶのか。おまえの一族と名をしるしとして知らねばならない。わたしがおまえの花嫁と定められているのかどうかを。

若者は答えた。わたしはスヴィプダグ、ソールビャルトの息子です。風の冷たい道を通ってここへ来ました。運命の女神ウルズの言葉に逆らえる者は誰もいません。

メングロズは言った。ようこそ。長いあいだ待っていました。歓迎の口づけを受けてください。愛し合う二人にとって、待ち望んだ出会いこそ何よりの喜びです。わたしはこのリュフャベルグに長く座り、毎日あなたを待っていました。いま、ずっと望んでいたものを得ました。あなたがわたしの館に来てくれたのです。わたしはあなたを恋い、あなたはわたしの愛を求めていた。これからは、命の終わりまで、二人でともに生きていくのです。


出典について:本稿は『古エッダ』に収められる二つの詩、「グローアの呪歌」と「フィョルスヴィズの歌」に基づく再話です(英訳は H・A・ベロウズ訳、1923年。訳者はこの二つを「スヴィプダグの歌」の題でまとめています)。二つの詩は17世紀以降の紙の写本にだけ伝わり、比較的新しい作と考えられています。母の墓の場面から館の門に着くまでの旅は、どちらの詩にも語られていません。写本には話し手の名がなく、話し手の区別は訳者によります。継母が誰なのか、メングロズがなぜスヴィプダグを待っていたのか、彼がレーヴァテインを手に入れたのかどうかも、詩には書かれていません。

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出典・資料