NORSE · STORY
フロールヴ・クラキが黄金をまいた日
「細い棒」とあだ名をつけた少年に金の腕輪を与えたデンマークの王フロールヴ・クラキ。約束の報酬を払わない継父アジルスのもとへ乗りこみ、燃えさかる火を跳び越え、追っ手の前に黄金をまいて逃げる。詩で黄金を「クラキの種」と呼ぶ由来の話。
「細い棒」と呼ばれた王
デンマークに、フロールヴ・クラキという王がいた。昔の王たちのなかで、気前のよさでも、勇気でも、やさしさでも、最も名高い王だった。そのやさしさを示す話として、よく語られるのがこれである。
ヴォッグという貧しい小さな若者が、フレイズルにあるフロールヴ王の館にやって来た。王はまだ若く、ほっそりした体つきだった。ヴォッグは王の前に出ると、じっと見上げた。王は言った。若者よ、わたしを見て、何を言いたいのか。
ヴォッグは答えた。国にいたころ、フレイズルのフロールヴ王は北の国々で最も偉大な人だと聞いていました。けれども高座に座っているのは、細い棒のような人で、それが王と呼ばれているのですね。
王は言った。若者よ、おまえはわたしに名をつけてくれた。これからわたしは「細い棒のフロールヴ」――フロールヴ・クラキ――と呼ばれるだろう。名をつけるときには贈り物を添えるのがならわしだ。だが見たところ、おまえにはわたしに贈れるものがない。それなら、持っている者がもう一方に与えればよい。
王は手から金の腕輪を抜き取って、ヴォッグに与えた。
ヴォッグは言った。あらゆる王のなかで、最も幸いな、与える方でありますように。わたしは誓います。あなたを殺す者がいたら、わたしがその者を殺します。
王は大きな声で笑って言った。ヴォッグは小さなもので喜ぶものだ。
払われなかった報酬
フロールヴ・クラキの勇気を伝える話もある。
ウプサラを治めるアジルスという王がいた。その妻ユルサは、フロールヴ・クラキの母だった。アジルスは、ノルウェーを治めるアーリ王と争い、ヴェーネル湖の氷の上で戦うことになった。アジルスは継子のフロールヴに使いを送って援軍を頼み、兵が出ているあいだの給料を払うこと、フロールヴ自身にはスウェーデンじゅうから好きな宝を三つ選ばせることを約束した。
フロールヴはサクソン人との争いのため自分では行けなかったが、十二人の狂戦士を送った。ボズヴァル・ビャルキ、豪胆なヒャルティなどの勇士たちである。その戦いでアーリ王は倒れ、アジルス王はアーリから兜ヒルディスヴィーンと馬フラヴンを奪った。
狂戦士たちは、報酬として一人三ポンドの金を求めた。さらに、自分たちがフロールヴのために選んだ宝――鉄の通らない兜ヒルディゴルトと鎖帷子「フィンの遺産」、そしてアジルスの祖先が持っていた金の腕輪スヴィアグリース(スウェーデンの豚)――をフロールヴのもとへ運びたいと言った。けれども王はそのどれも渡さず、給料さえ払わなかった。狂戦士たちは不満を抱いて帰り、フロールヴにそのことを告げた。
火を跳び越える
フロールヴはすぐにウプサラへ向けて旅立った。船をフューリス川に入れると、十二人の狂戦士とともに、安全の保証もないままウプサラへ馬を走らせた。
母のユルサがフロールヴを迎え、宿へ案内したが、王の館には通さなかった。一行の前で火がたかれ、酒が出された。するとアジルス王の家来たちが入ってきて、火に薪をどんどん積み上げ、フロールヴたちの服が燃えるほど大きな火にした。そして言った。フロールヴ・クラキとその狂戦士たちは、火からも鉄からも逃げないというのは本当か。
フロールヴ・クラキは跳び上がり、家来たちも皆立ち上がった。フロールヴは言った。アジルスの家の火を、もっと大きくしてやろう。そして自分の盾を火の中に投げこみ、盾が燃えるなかを、炎を跳び越えて言った。火を跳び越える者は、炎から逃げはしない。
家来たちも一人ずつ同じようにした。そして火を積み上げた者たちを捕まえて、炎の中へ投げこんだ。
フューリスの野にまく種
そこへユルサが来て、金をいっぱいに詰めた鹿の角をフロールヴに渡した。その中には腕輪スヴィアグリースも入っていた。ユルサは、急いで軍のもとへ馬で帰るよう言った。
一行は馬に跳び乗り、フューリスの野へ駆け下った。まもなく、アジルス王が鎧に身を固めた軍勢を率いて追ってくるのが見えた。一行を殺すつもりだったのである。
フロールヴ・クラキは右手を角の中に突っこんで金をつかみ、道いっぱいにまき散らした。それを見たスウェーデン人たちは鞍から跳び降り、つかめるだけの金を拾った。けれどもアジルス王は、そのまま追えと命じ、自分もすさまじい勢いで馬を駆った。王の馬スレングヴィルは、あらゆる馬のなかで最も速かった。
アジルス王がすぐうしろに迫ってきたのを見ると、フロールヴ・クラキは腕輪スヴィアグリースを取って王のほうへ投げ、贈り物として受け取れと言った。アジルス王は腕輪めがけて馬を進め、槍の穂先で腕輪をすくい上げ、柄の付け根まで滑らせた。
フロールヴ・クラキは振り返って、王が身をかがめるのを見て言った。スウェーデン人のなかで最も力ある者を、豚のようにかがませてやった。
こうして二人は別れた。このことから、黄金は「クラキの種」とも「フューリスの野の種」とも呼ばれるのである。
出典について:本稿は『散文のエッダ』「詩語法」第43章に基づく再話です(英訳は A・G・ブロデュール訳、1916年)。原典では、詩で黄金を「クラキの種」と言い換える理由を説明する話として語られ、章の終わりには詩人エイヴィンドとスョーゾールヴの詩が引かれています。フロールヴ・クラキの生涯は、長編の『フロールヴ・クラキのサガ』でも語られますが、本稿はそれと照合せず、「詩語法」の語りだけを述べました。
出典・資料
- スノッリ・ストゥルルソン『散文のエッダ』「詩語法」 — 作品全体。章番号はBrodeur訳に従い、他版の番号と混同しない
